第9話 ひげの先生

この病院は、毎週木曜日の午後2時から
皮膚科の教授回診がある。
トイレラッシュが続いていたあたしは、
おかまいなくトイレに通いつめた。
その時、なんか白衣の集団が
ぞろぞろ廊下を歩いてやって来るのを見た。
すご...ドラマのまんまだ。
変な感激だった。

あたしがトイレから戻ると、
病室で別の患者が処置中との事で中に入れなかった。
そこへ病室から昨日会ったひげの先生が出て来た。

「こんにちは」
ひげの先生が挨拶してくれたので、あたしも挨拶を返した。
「口の中見せてもらってもいいですか?」
あたしは口の中を大きく開けて先生に見せた。
「調子はどうですか?」
「発疹の色が黒くなってきています。
あと、口の中が昨日より痛いです」
「良くなっていってる証拠だから、
もっと黒くなっていきますよ」

そんなやりとりをしているうち、
処置が終わって医師たちや看護師、
それに薬品や器具を積んだ台車が病室から出て来た。
「関屋さん、回診始めますよ」
部屋の中から寺内先生があたしを呼んだ。
あたしはひげの先生と一緒に病室へ入った。

「ひとみ!あんたどこまで行ってたの!?
先生が待ってて下さったんだよ!」
母はあたしを叱った。
「ああ、トイレから帰って来たら
なんか処置中とかで入れなくて、そこで先生と」

間仕切りのカーテンを閉めて教授回診が始まった。
ん?
教授回診なのに寺内先生とひげの先生しかいない。
...てことは。
ひげの先生が教授なのか。
昨日はのどが痛くて痛くてそんな事気付かなかったな。

母が発疹の跡は残るのかとひげの先生...教授に聞いたら、
教授は、
「皮がむけ落ちたあと、
半年から1年くらいかけてゆっくりと消えて行きます」
と、説明してくれた。
つまり、顔も跡が残るというわけか...。
これは大きな痛手だな。
いくらあたしが「ぎりぎり女」な女でも、
顔は女の一生を大きく左右するからな。

教授回診のあと、下着を取り替え、
看護師さんに手伝ってもらって、
着替えと薬つけをした。
その際、看護師さんが、
向かいの空きベッドに小学生の男の子が
入って来るよと教えてくれた。
聞くだけで鬱なニュースだ。

それからはもう何もすることがなく、
ただ横になっているだけだった。
それでもちっとも退屈しなかった。

問題の少年は小1時間ほどしてやって来た。
小学校3〜4年くらいだろうか。
両親と看護師が彼に付き添っていた。
あたしの時と同じように入院の説明を受けていた。
なんだかうるさそうな少年だ。
これはあたしに寝るなということだな。

そんな向かいのベッドの様子を伺っている時、
薬剤師がやって来て、口内炎の薬を置いて行った。
そのついでにスペアの体用塗り薬を注文しておいた。
口内炎の薬はごく小さなチューブにはいっていて、
なんだかかわいらしい。

そんな薬を1本処方するにも、
この病院は大きな紙袋に入れて来る。
この融通のなさに大病院を感じた。

夕方ごろから唇と舌が痛み出してきた。
鏡で見たものの、見た目にはそう変化はなさそうだ。
テレビを見るわけでもないので、母が退屈してきた。
そこへ意外な人物が現れた。
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