第7話 リゾートホテル

...まいった。
違う環境、子供の泣き声、
いびき、テレビの灯り、
不眠の条件が揃いも揃っている。

熱もちょっとあるし、
何より今日一日いろいろあって
疲れているはずなのに、
いっこうに眠くなる気配すらない。

こうして眠れずにただ横になって過ごしているうち、
看護師が夜中の見回りにやって来た。
看護師がカーテンをわずかに開けて、
あたしの足元にちらりと懐中電灯の光を向けると同時に、
これ幸いとあたしはむくりと起き上がって、
「眠れません」
と、不眠を訴えた。

すると看護師は、
「睡眠薬をお持ちしましょうか?」
と、聞いてきた。
入院理由が理由なだけに、
薬との相性が不安だと言うと、
「じゃあ、ごく弱い安定剤でも」
と、安定剤を1錠持って来てくれた。
暗がりの中で飲んだので、
何て薬だったかはわからなかった。

それでも1時間ほどすると、とろとろとしてきて、
次に気がついた時に時計を見ると4時間近く経っていた。

この病院の起床時間は朝6時で、
時間になるとまず部屋の照明がつき、
「おはようございます、起床時間です」
と、放送が入る。
しかし、朝7時過ぎの朝食までの間、
何もすることがない。
なので、起床時間は実質朝7時ごろだ。
洗面は朝食の放送が入ってからで十分だし、
髪の毛を整えるのはいつでもできる。

朝食には前日の夕食と同じく、
全がゆとみそ汁、煮物などが出た。
今朝はうがい薬という、心強い味方がある。
念には念を入れて、ゆっくり3回ほどうがいをして、
しっかりと口の中をしびれさせてから食事に挑んだ。

おかゆはゆうべの経験から
だめとわかっているので、
みそ汁の汁に挑戦してみた。
相変わらずお口の中に大打撃だ。
でも飲めないことはない。
のどの痛みがひいているからだ。

食後に看護師が来て、血圧を測るついでに、
「お食事はいかがでしたか?」
と、聞くので、
「おかゆの米粒が硬くて食べられません。
おかゆだけでなく、固形物がつらいです」
と、答えると、
「わかりました。
とりあえず全がゆ食を出しちゃったけど、
これからどうするか先生と相談してみますね」
と、言って去って行った。

「関屋さんおはよう。薬、塗りましょうか」
8時過ぎ頃、寺内先生がカーテンをがらりと開けた。
ぎょっとした。
お前今、言いながら開けただろう?
中で着替えでもしていたらどうする。
相手があたしじゃなかったら、
大問題に発展したかも知れないぞ。
あたしはベッドに横になったまま、
ぎろりとガン付けをした。
...一応田舎のヤンキー風に。

このおっさん、昨日と同じ服のような気がする。
水色のこまかいチェックのネルシャツに灰色の綿パン。
あたしはもう一度にらみつけてから、
ベッドを出て彼のあとを追った。
先生は歩く時、内股でぺたぺたと歩く。
特に左足が目立って内側に向いている。
おお、あたしと同じ歩き方をするやつがいるではないか!

今朝は若い女性の看護師と二人かがりで薬つけだった。
ここの病棟はあたしより若い看護師がほとんどだ。
おっさん気味な寺内先生に薬を塗ってもらうと、
なんだか痴漢や風俗店的だが、
若い女性看護師に塗ってもらうと、
ちょっとエステな気分だ。
おまけにナースコールを押すと来てくれて、
あれこれしてくれる。
いたれりつくせり!

今朝は昨日とはうって変わって気分がいい。
昨日は入院を座敷牢監禁だと思っていたのに、
今日はちょっとしたリゾートホテル滞在ってところだ。

前日に言われた通り、9時頃から点滴が始まった。
点滴つきってのは、なんだか犬の散歩のようなので、
あたしはこの点滴をポチと命名した。

そのあと、ポチつきで地下にある売店に行ってみた。
商品の値段は高いが、
けっこういろいろな物が売られている。
ペットボトルのお茶とプリン、
テレビ用のイヤホンを買ってみた。
ホールでお茶とプリンに挑戦だ!!

売店のあと、1階正面入り口そばにある、
病院の科とその担当医師を紹介するボードを初めて見た。

皮膚科、医師、寺内 藍。

どうやらそれが寺内先生のフルネームのようだ。
これじゃ誰がみても女医の名前だな。
あたしはふっと笑って、
他の階も見にエレベーターの方に向かった。
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