第6話 不眠決定!!

あたしを研究材料にしようとしているっぽい、
アキバ系医師にさわさわと
痴漢チックに薬を塗られて、
「むきゃあ!!」
と、むかついたあと、
部屋に戻るとちょうど夕食の時間だった。

まず、食事のちょっと前に、
「お茶の準備ができております」
と放送が入り、患者はお茶をホールに取りに行くか、
自分のところに回って来るのを待つ。

それから食事の入ったコンテナがやって来ると、
「食事の準備ができております」
と放送が入り、
これもまたお茶と同様に自分で取りに行くか、
運んでくれるのを待つ。

あたしの場合は、
まだ母がやって来ないのでカップも何もなく、
とりあえず病院が貸してくれた
カップにお茶をもらった。

お茶と食事のちょうど間に、
母が荷物を持って戻って来た。
時間で言うと、7時ちょっと前だった。
あたしは母に病院で思いがけず風呂に入れた事、
お茶のカップやタオルなどを
病院から借りたことなどを、ほぼ単語で話し、
下着を新しく取り替え、
次回訪問時に持って来てもらいたいものをメモに書いた。

小さいホワイトボード、
筆記用具と書きかけの小説、爪切りなど。
それだけでちょうど7時の面会終了時刻になり、
母は帰って行った。

母が帰ってしばらくすると食事の放送が流れた。
同室の患者が食事を運んで来ると、
部屋の中にその匂いが立ちこめた。
朝から何も食べていないあたしは、
その匂いで急にお腹がすいてきた。
口の中がただれて食事どころではないのに、
お腹だけはちゃんとすくのが腹立たしかった。

そして、食事はあたしの前にも運ばれて来た。
札を見ると「全がゆ」とある。
おかゆの他に焼き魚や煮物などがあったが、
おかゆなら塩気もなくてやわらかそうだし、
これなら食べられるだろうかと箸を伸ばしてみた。

しかし、このおかゆの米粒が
おかゆとは思えぬ驚きの硬さで、
ただれた口の中に大打撃を与えた。
...あたしは箸を置いた。

ものすごくお腹がすいている。
目の前に食事が置かれてある。
そのいい匂いを感じる。
あたしはそれを食べることができず、
ただ料理が冷えていくのを見ているだけ。
あたしは泣いた。

いったん泣き出したら、
なんだか自分の中で鬱モードに
かちっとスイッチが入ってしまい、
そのまま小1時間泣き続けてしまった。

あたしがそうやってうつうつと泣いている横で、
右隣のじいさんのところに看護師がやって来て、
じいさんのベッドに下がっている
尿をためる袋の内容量を計測して、
その後バケツにたまった尿を回収していった。
...これから入院している間、毎日これなんだろうか。
食事時間とかさなったら...。
あたしの鬱モードは一気に加速した。

消灯時間のちょっと前に点滴が終わったので、
ナースコールを押してそれを知らせると、
看護師が来て風呂に処置をしただけで、
新しい点滴はしなかった。
点滴は朝の9時から夜の9時までとのことだった。

そのあと、うがい薬がやってきた。
口の中にごく短時間のあいだ局所麻酔をかけるものだ。
紫色をしていて、さっそくそれでうがいをしてみると、
本当に一時的に口の中がしびれて痛みがやわらぐ。

消灯時間は確か9時のはずだった。
消灯時間になると、
「消灯時間になりました。
まもなくお部屋の照明が消えます。
テレビ・ラジオ等を消してお休み下さい」
と、放送が入る。

しかし、右隣のじいさんがテレビを消さない。
カーテン越しにテレビの灯りが
チラチラと目障りこの上ない。

しばらくすると、いびきが聞こえ始めた。
今度は左隣のばあさんのベッドからだ。
いや、右隣のじいさんもだ。
しかもテレビがつけっぱなしだ。
まあ、あたしもこんな早くから眠れるはずはないから、
12時くらいまでは耐えよう。

そんな風に考えていたが、11時くらいになると、
今度は入り口すぐの乳幼児が夜泣きしはじめた。
老人たちのいびきもいっこうにやむ気配がない。
まずいぞ。
これは今夜眠れない事決定だ。
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