第4話 むかつくわ!!

その男性医師は、背も大きく
若干太り気味の大きな体つきで、
気の弱そうな顔をしている。

他にメガネをかけている事とか、
美容院ではなく床屋で切っていると思われる、
中学生っぽい髪型とか、シャツ中心の服装の傾向とか、
ぼそぼそとした暗い話し方...
あたしの定義するアキバ系そのものだ。

名前はまだ知らないが、
このアキバ系な医師のがちょっと年上だろう。
目元のしわがそう言っている。
彼は話をする時、時々顔をきゅっとしかめる癖がある。

あたしはとりあえずそのアキバ系医師に向かって、
ぎろりと田舎のヤンキー風に思いっきりガン付けをした。
それから写真撮影のために腕をまくった。
最初は手のひらと両腕。
次は口の中。
最後は背中。

ちっ、どうせお前の研究材料になるだけだろうが!!
そう思うと、このアキバ系医師が
なんだかむかついてきやがった。

写真撮影のあと、看護師が点滴の準備をし、
アキバ系医師がまたやってきて
採血と点滴をしますと言い、
左腕をゴムで縛って
針を挿入するポイントを探し始めた。

その手つきがまた、さわさわと
痴漢がおしリを撫でるその手つきに似ていて、
いやらしいことこの上ない。

あたしが退院のあかつきには、
こいつの顔をグーで殴ってから退院だな。
こいつ、よく見るとまゆ毛がうっすらとつながっている。
胸の名札をみると、寺内と書いてある。
下の名前は...目やにでぼやけて見えないや。

「失礼します」
アキバ系医師、寺内先生がとうとう
あたしの腕に太い針を突き立てた。
「うっ!」
あたしはいい歳こいて声をあげてしまった。
ものすごい痛みだ。
「あ、こりゃだめだ、入ってないわ」
寺内先生はそう言って針を抜いた。
失敗かよ!!

今度は右腕をゴムで縛り、またさわさわと痴漢風に
挿入ポイントを探して針を突き立てた。
赤い血が管をすうっと通って流れて行った。
よかった、成功だ。
採血のあとは針をそのままにして、
あとは点滴につないでとりあえずの処置は終了した。

母が看護師に聞いたところ、
部屋が2時を回らないと空かないと言うので、
5番診察室で待つ事になった。

ところが、これがなかなか空かない。
診察室のパソコンのモニタには、
時刻が色を変えながら動く
スクリーンセーバーが設定されているが、
これを見る限りでは、
もうかれこれ1時間は待たされている。

この病院の面会時間は7時までと決まっている。
母は荷物を家に取りに
行かなければいけないと言い出した。
あたしは行くなら早く
行って来たほうがいいと言ったが、
年配の看護師が、
「もうじき部屋空きますから」
と、言うので母は動くに動けなかった。

こんなやりとりをしている間、
寺内先生が様子でも見に来たのかどうだか、
あちこちうろちょろしていた。
彼のムダにでかい、太めの体で
ちょろちょろされるのが気にくわない。
邪魔!!
目障り!!

母がしびれを切らせて
荷物を取りに行こうとした時、
やっと病室が空いたと知らされた。
あたしと母は、
若い女性の看護師に付き添われて病室に移った。

病棟は東西、科ごとに分かれていて、
あたしが入る事になった病室は、
東病棟最上階ナースステーション前の部屋だった。
そこは男女混合の8人部屋で、
老人の男女と子供と乳幼児が入っていた。

あたしは、入って右の、窓から2番目のベッドに通された。
窓際には男性の老人、左隣には女性の老人が寝ていた。
ベッドに座って、枕元にある名札を見た。
主治医、寺内・外村。
...寺内って、あいつかよ!
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