第3話 初対面

あたしは今まで入院なんてしたことがない。
たった1泊の旅行でさえ眠れないほどだ、
入院となればそれがいく晩も続くに違いない。
激しく不安だ。

「内臓までいっちゃってる可能性があるので、
設備の整った大きな病院で
詳しく診てもらったほうがいいと思います。
近くに大学病院があるので、
そこに紹介状を書きましょう。」

先生はいつもの穏やかな口調でそう言って、
電話をかけたり紹介状を書いたりした。

こうして、あたしは病院に行く事になった。
車の中であたしはよだれを垂らし、
それをしょっちゅうティッシュで拭き取っていた。

その病院は皮膚科の診療所から
車でちょっといったところの、
田んぼばかりの何もないところにぽつんと建っていた。
近くまで来ると、かなりの大きさである。
しかもけっこうきれいだ。
昨年亡くなった父がいた、
小さな、全てが古い病院とは大違いだ。
全てが大規模だ。

新患受付のカウンタで、
あたしは母から渡された紹介状の封筒をさし出し、
お願いしますとやっと声を絞り出した。
それから、受付用紙に必要事項を書き込むと、
ソファに半分横になって母を待った。

間もなく母が現れて、
2階にあるという皮膚科外来の前に移り、
そこのソファでも半分横になりながら順番を待った。
時間の経過がやけに長かった。
熱が朝より高くなっているのだろうか。

「関屋ひとみさん」
やっと順番を呼ばれて6番と書かれた診察室に入ると、
あたしよりいま少し年かさの女医がいた。
皮膚科ということと、全身に発疹が出ているのもあって、
これはラッキーと思った。
この女医さんがあたしの主治医になるのだろうか。
いや、だったらいいな。

あたしが書いた病状レポートは母が持っていた。
それを女医さんに渡すと、
彼女は具体的な日時や、飲んだ薬の名前などを聞いて来た。
声を出すのが厳しいので、こういう問診はつらかった。

それが終わって、そばにあった3つある処置台のうち、
真ん中の処置台に横になっていると、
今度はうっすらひげを生やし、
めがねをかけた中年男性の医師がやってきた。
どうやら皮膚科の先生は
この医師に紹介状を書いたようだった。

ひげの先生は紹介状の内容や、
女医さんからの報告などにより、
大体の診断はついていたようだった。
母が先生に挨拶し、
先生がどんなあたしの肌や口の中を診て、
「スティーブンス・ジョンソン症候群」
と、言った。
聞いたことない病名だ。

ここでまた、どんな薬をいつからいつまで飲んだとか聞かれた。
母があたしに代わり、入院についていろいろ聞いていた。
母と先生の会話を聞いていると、
あたしの入院は決定的のようだ。
母がまた挨拶をして、ひげの先生はその場を去って行った。

「ひとみ、あんたやっぱり入院だってよ」
母はあたしにそう宣告した。
...鬱だ。

横になりながら、とめどなく流れるよだれや目やにを
ティッシュやハンカチで拭いていると、
「失礼します、写真撮ります」
と、言って別の男性医師が高機能そうな、
大きなデジカメを首からぶら下げて、のそりと入って来た。
それが問題の男だった。
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