第30話 外出

薬を塗ってもらっている最中、
あたしはふと近所のコンビニに行きたいと思った。
母が持って来た本を全て読み終えてしまったものの、
地下の売店はいまいち本の種類が少ないからである。

「ねえ、先生。外出したいんだけど」
あたしは早速、寺内先生に掛け合ってみた。
「いいけど、どこへ?」
「近所のコンビニへ。本を買いに」
「ああ、あそこか...」

もっさいおっさんの言う「あそこ」とは、
病院の真ん前にあるコンビニの事である。
「それともうちょっと離れたとこのも」
コンビニはもうちょっと離れたところにもう1軒ある。
ぜひそこも回ってみたい。

「じゃあ、出かける時には
外出許可届を書いて行ってください」
外村先生が言った。
生真面目な彼らしい発言だ。

薬つけのあと、あたしは看護師に頼んで
外出許可届用紙をもらってそこへ、

行き先:近所のコンビニ
所要時間:小1時間ほど

と、記入し、灰色のフリースに
クリーム色の帽子をかぶって、出かける支度をし、
外村先生と看護師のサインをもらって、下に降りた。

いつもメールチェックをする救急搬入口から
外へ出ると、よく晴れていて暑いくらいだった。
あたしは正門の方へ行かず、
そのまままっすぐ車道を横断し、
植え込みの間に入った。

この植え込みの先は1.5メートルほどの塀になっていて、
その塀を飛び降り、道路を渡るとコンビニに着く。
入院中の患者らしくはないが、
正門から行くよりずっと近道である。

コンビニでは期待した本はなく、
お菓子と洗剤を買うにとどまった。
こんなことならまる1日外出許可をとって、
バスで繁華街へ行った方がましだった。

午後からシャンプーをして、友人に手紙を書いた。
手のひらが気泡みたいなものでいっぱいになっていた。
そして夕方にはそれがべろんと剥け始めた。

夜勤の挨拶に来た看護師さんが、
調子はどうかと様子伺いに来た時、
寺内先生の話題が出たので、
「寺内先生は雑」
と、言っておいた。

もっさいおっさんの何が雑かというと、
「驚異の点滴針事件」を代表に、
見た目も雑な事、
最近の薬の塗り方も雑な事である。
ちなみに患者の扱いも雑だな。
嫌なところで「くすっ」と、嫌な笑い方をするし!
<<>> トップ
Copyright (c) 2006 Momo Sightow. All rights reserved.