第28話 脅し

「はい、どうなさいましたか?」
少し間を置いて、
頭の上のスピーカーから看護師の声がした。
「...助けてください、とても苦しいです...」
あたしは、今の状況を上手く伝える事が出来なかった。
「今伺います」
看護師はそう言うと、回線をぷつりと切った。

しばらくして、看護師がカーテンを開けた。
丸い顔をした、若い看護師だった。
「関屋さん、どうしましたか?」
あたしは少し泣いて、
それから呼吸を整えてから言った。

「...なんか、猛烈に死にたくなってしまって...。
あの、安定剤ください」
それだけを言うと、
また涙で声が詰まってしまい、
何も言えなくなってしまった。
「ちょっと待ってくださいね、
先生と相談してきます」

しばらくして、彼女が戻って来た。
そして、テーブルの上に
パックに入った安定剤を1錠置いた。
「安定剤が1日1錠まで出ました」
...やっと出たか。

「ありがとうございます」
あたしはテーブルの上の、
青いマグカップ型の中国茶器を引き寄せ、
ふたを取って、
そこに入ったお茶の残りで安定剤を飲んだ。

安定剤は1軒目の病院でもらったのと同じものだった。
1錠も飲むと翌日まで残る薬だが、
ここでは横になっていればいいだけなので、
残っても問題ない。

それから、看護師はしばらく話をしてくれた。
外村先生と同じく、彼女も生真面目な人だ。
薬を飲んで1時間ほどした頃、
意識がとろりとしてきて、
夕食の時間まで起きるでもなく、
眠るでもなく、うとうとと過ごした。

その夕食ももちろん激しく完食だった。
毎日おやつも食べているし、これは太りそうだ。
夕食後の薬の時、見た事のない、
大きな黄色い錠剤が出た。
待望の気分安定剤だ...!!

どうやら、松本先生がヘンなおじさんか、
もっさいおっさんのどちらかに、
「出さないなら人生責任取ってくれ!!」
の、脅しを入れてくれたようだ。
...ドスをきかせたかどうかは不明だが。

入院12日目。
さすが頓服&気分安定剤&睡眠薬。
入院してから初めてちゃんと眠れた。
この日は日曜日で、体重測定日だった。
朝食前にナースステーション前の体重計に乗って、
結果を備え付けのノートに書き込む。
食べているのになぜか1キログラム減っていた。

回診は皮膚科処置室前に患者が並んでいたので、
人がいなくなるのを、
自分のベッドで時折様子を伺いながら待って行った。

「関屋さんおはよー」
中に入ると寺内先生と外村先生がいた。
「あれ、何でいるの?日曜日なのに」
あたしは驚いた。
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