第27話 人生の責任

ペースト食からいきなりの通常食はどうかと心配したが、
口の中の傷が塞がっていたので、
しみる事もなく無事完食できた。
しかも、内服ステロイドの副作用も
手伝っての激しい完食である。

内服ステロイドの副作用なのか、
それとももともとそうなのか、
この病院の食事はまずくはないと思う。
おかゆは恐ろしく粒が硬かったくせに、
おにぎりのごはんは軟らかめだった。

この日は寺内先生が、
内股でぺたぺたとやって来る前に、
腹がごろごろし、便を出す事ができた。
昨日、おとといと、
もっさいおっさんに邪魔されて出なかっただけに、
出す時おしりの穴のきわが痛かった。

ゆうべ外村先生が予告した通り、
昼食後に精神科の丸山...ヘンなおじさんの仲間である、
松本先生がやって来た。

松本先生は見た目30代後半で、
背が低く、髪の毛がくるくるとしていて、
ひげのそりあとが青々としていた。

「昨日、とても苦しんでいたと聞きましたが...」
彼は簡単な自己紹介のあと、こう切り出した。
あたしは、午前中に話す事をまとめておいた
メモを見ながら答えた。

「はい...、最近1日のうちで気分の上下が激しく、
自分で自分に疲れている状態です」
「そうですか、それはつらいですね」
「入院理由が理由なだけに、
そういう状態でも気分安定剤も
頓服の安定剤もないのが、とてもつらいです」

「うーん、薬の事は僕の口出し
できるところではないのですが...」
「はい、前に丸山先生も薬については、
主治医の寺内先生が許可してくれない、
とかおっしゃっていました」
「わかりました...。じゃあ、
とりあえず丸山先生に相談してみますね」

「お願いします。自分の中でも気分安定剤は重要なので、
もし許可がおりなかったら、
“出さないなら人生責任取ってくれ!!”
と、脅しを入れといてください」

あたしは真剣なつもりだったが、
松本先生はぷっと吹き出した。
それにつられてあたしも笑った。
「そのように伝えておきます」
彼は笑いを引きずりながら答えた。

「脅しを入れる時は、
ぜひドスをきかせて凄んでくださいよ」
「ええ!?ドスは苦手だなあ...」
松本先生は苦笑いしながら、
それじゃと言って部屋を出て行った。

松本先生が去ったあと、
おやつの時間が近かったので3階に降りた。
前々から食事が通常食に戻ったら、
3階カフェテリアで油物を食べたいと思っていたからである。

しかし、この時間なので、
カフェテリア内の売店に商品は少なく、
あたしは1つ残っていたコロッケパンを買って、
カフェテリアの中でそれを食べて部屋に戻った。

4時頃、また急激に鬱のどん底に落ち込み、
「妄想の輪」が自分の中で見事に完成され、
ぐるぐると回り始めてしまった。
理由無き圧倒的な孤独感に覆われ、
自分の存在を呪い、死を願う。
もう止まらない。
どうしたらいいかわからなくなってしまった。
あたしは意を決してナースコールを押した。
<<>> トップ
Copyright (c) 2006 Momo Sightow. All rights reserved.