第26話 嘘

「関屋さん、どうしたんです?」
「.......」
ちょっと答えられなかった。
なにしろ根拠のない涙だ。
説明なんてできるはずがない。

「俺でよかったら話聞きますよ」
外村先生て本当に「いい人」なんだなと思った。
それとも「うまい」と言った方がいいだろうか。

なぜ彼が結婚できて、
寺内先生...もっさいおっさんが結婚できないのか、
なんとなくだけどわかってしまった。
もっさいおっさんはこの外村先生のように、
優しさをストレートに表現する事ができない。

「はい...死にたいんです...」
「どうして死にたいの?」
「それをうまく説明できなくて困っているんです...」
「何かつらい事でもあるの?」
「はい...毎日気分の上下が激しくて自分で自分に疲れました」
「それは薬の副作用のせいもあるから、
もうちょっとして薬をやめられたらきっと良くなりますよ」
「だといいんですけど...」
「明日ちょうど精神科の診察日ですから、
先生に診てもらいましょう。
こちらからも先生に伝えときますね」
「お願いします」

外村先生とはそれから少し雑談した。
彼がいる間は涙が引いていたが、
彼が去ったあと、また涙が出て来た。

...あたしは嘘をついている。
こんなに一生懸命な人に、
死にたい気持ちの全てを明かしていないどころか、
平気なふりをしている。

それにしても外村先生てやはりきまじめな人だ。
もっさいおっさんなんか笑いに来るだけなのに。
失礼な人だ。
いや、これでいいのだ。
退院すれば忘れるまでなのだから。

入院11日目。
体の皮がむけている。
ゆうべ寺内先生に言った通り、
朝食からおにぎり食になった。
おにぎり食はどうやら
手が不自由な人のためのメニューらしい。
他にパン食、あたしの食べていたおかゆ食、
ペースト食と、この病院の食事バリエーションは豊富だ。

おにぎりは小さいものが3つ皿に乗っていて、
3つ全ての中に練り梅が入っていて、
外に味のりが巻かれている。
それ以外は通常食と同じおかずがついている。

さて、ゆうべまでペースト食だった訳だが、
いきなりの通常食はどうだろうか。
あたしはお茶を一口飲んでから、
おにぎりに手を伸ばした。
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