第25話 見せ物

あたしは早いうちに母に頼んで
デジカメを持って来てもらっていた。
と、いうのもこの病院の面会時間は
午後1時から7時までで、
母がどうしても食事の風景を見られないからである。
弟も、
「食事が一番おもしろいのにそれを見られないなんて!」
と、なにやら妙な残念がりようを見せた。
そういうわけで、
あたしはそのデジカメで食事を撮影している。


「関屋さーん」
夕方、寺内先生...いや、もっさいおっさんが
内股でぺたぺたとやって来て、くすっと笑い、
「ごはんどうするよ?」と、
東北弁チックな訛りで聞きに来た時、
「入院の記念に写真でも撮るか」
と、あたしはそのデジカメを取り出し、
彼の方に向けた。

すると、もっさいおっさんは、
「だめだめっ!絶対おもしろおかしくデフォルメして
サイトに描きそうだからだめ!」
と、激しく拒否した。

「えー、いいじゃん!」
彼の拒否を無視し、なおもカメラを向けると、彼は、
「さっ!」
と、言って部屋を出て行った。
あたしは、
「むっ」
と、口を尖らせてカメラをしまい、また横になった。

しばらくして。
またぺたぺたという足音がして、
「で、ごはんどうするよ?」
と、寺内先生が笑いながら内股で再登場した。
あたしは前々から通常食に「おにぎり食」
というものがあるのをチェックしてあり、
「じゃあ、おにぎり食で」
と、即答した。
「じゃあ明日からおにぎり食ね」
もっさいおっさんはくすっと笑った。
このおっさん、どうやら半分笑いに来たっぽいな。
失礼な、あたしは見せ物か。

寺内先生とのこういったやりとりは楽しい事は楽しい。
しかし、その楽しさは退院時の
つらさや淋しさとなるだろう。
虚しい。

寺内...いや、もっさいおっさんが
にぎやかしに来て去ったあと、
淋しさや虚しさがあたしの中に急に広がった。
それと同時に涙があふれて来て、あたしはまた泣いた。

生きているとは本当に虚しい事だ。
自分がこの世に生きているという事に対し、
全く意味を見出せない。
自分は無駄な存在だ。
自分がこの世に存在している事自体呪わしい。
早くこの世から消えてしまいたい。

妄想の輪が形成され、
あたしの頭の中でぐるぐると回転しはじめた。
病室の中であたしだけがカーテンを閉め切って、
うつうつとすすり泣いていた。
その時、誰かがカーテンを開けた。
外村先生だった。
珍しい、夜いるなんて。
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