第23話 激躁

入院9日目。
朝食の後、メールチェックに外へ出たら、
とても暖かでよく晴れていた。
風が光っているような気さえした。
この日は木曜日で朝の回診はなく、
午後から教授回診の予定だった。

朝食までだいぶ時間があった上、
気分もとても良かったので、
病院の建物の周りをぐるりと散歩することにした。

この病院の建物の周りには、
建物に沿ってほとんどの部分に歩道が作られている。
大病院なので1周が結構あり、
まさに散歩してくれといわんばかりだ。

いつもの救急搬入口から出て、
右に曲がり、外来駐車場の方へ向かう。
それから、正面玄関の前を通って、
また救急搬入口に戻る。

2〜3周したところで、
なんだか体が軽くなって、
もっと歩いてみたくなった。
5周ほどしたところで目が回って来たので、
逆方向に回る事にした。

そうして結局10周ほど回ってしまった。
入院患者の散歩とは思えぬ、
激しい散歩になってしまった。

午後2時から教授回診は始まった。
白衣の集団はあたしのところにもやって来て、
あたしをぐるりと取り囲んだ。
この日は見た事のない先生たちもいた。

寺内先生は、教授の前だからなのか、
やけに神妙な態度で、
「スティーブンス・ジョンソン症候群です」
と、ひげの教授に言った。
寺内先生のでかい体と
この小さな態度の対比はとてもおもしろい。
ひげの先生は体と口の中を診て、順調だと言った。

それから寺内...もっさいおっさんが残り、
例の処置に入った。
その時、
「サイト見たよ」
と、もそりと話を切り出した。

「!!」
あたしはびくっとした。
早っ!!
もう見たのかよ!
「入院のお知らせに対して、
同情の書き込みが結構来てたじゃん」
「お見舞いカキコと言ってよ。
...まあ、先生もよかったら掲示板カキコしてよ、
その時は歓迎するよ」

あたしはとりあえずこのもっさいおっさんを、
掲示板参加に勧誘しといた。
なんかこのおっさん、仕事忙しくて友達少なさそうだし。

あたしがパジャマを脱いでいる間、
寺内先生は薄いゴムの手袋をはめ、
股をきゅっと揉んでいた。
かゆいらしい。
というか!
まさかその手で処置!?
どうやらそのまさからしい。
彼は手の甲に軟膏と保湿剤を取り、
それを混ぜてあたしの体に塗り始めた。
むきゃあ!!

この日は珍しく1日中気分が良く、
あたしは夕方にも散歩に出た。
iPodを持って出たので、さらに気分がのってしまい、
朝以上にくりぐりと激しく散歩してしまった。
その上、帰りには1階から10階まで階段で登る始末だ。
...激躁?
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