第22話 チャリ好き

「...行かねえよ」
寺内先生...いや、
もっさいおっさんは口を少し尖らせ、
暗い表情でぼそりと答えた。
ごめんよ!

「そうかあ...じゃあ、普段はどんな生活してるん?」
「えっ、普段は12時くらいに寝て、
7時半くらい...けっこうぎりぎりまで寝てる...」
なんだかそんな感じする!

「じゃあ、休みの日は?何してるん?」
なんかこれもあまり大した過ごし方ではなさそうだ。
「午前中いっぱい寝て、午後からチャリ磨き」
「チャリ!?」
あたしは驚いた。
と、いうのもあたしがチャリ好きだからである。

あたしの住んでいるあたりでは、
かなりの近所まで行くのにも
自動車が使われていて、
ほとんどの人が運転免許を持っている。

そんな中、車酔いが激しくて車嫌いなため、
運転免許をもっていないあたしの移動手段は、
どうしても自転車に頼らざるを得ない。
それだけに自転車への思い入れは強い。

また坂が少なく、
適当なサイクリングロードが近所にあるのも、
あたしのチャリ好きに拍車をかけている。

しかし、かなりの近所まで行くのにも
自動車が使われている土地柄だけあり、
あたしの周りには自転車好きの人がいなかった。

過去に一度友人に、
「趣味はサイクリング」
と、言ったところ、
バカにされてしまったくらいだ。

そんな訳で、自分以外のチャリ好きの人の出現は、
とても驚きで、とても嬉しかった。
「そう、マウンテンバイク」
寺内先生はもそっと言った。
このもっさいおっさんがマウンテンバイク!
いや、マウンテンバイクならまだいいか。
あたしのなんて、
弟の使わなくなった古いママチャリだ。

「へえ...」
それにしてもチャリを磨くのはいいが、
乗りに行く暇と体力がないのだろうか。
「ちなみに謎の主治医2号は、
バリバリのロードレーサー。
トライアスロンやってるんだよ」
「ほぅ」
あの謎の主治医2号、外村先生が!

それから寺内先生とは、あたしがやっているサイトの事、
ブログに寺内先生がそのうち登場する事、
またその内容、具体的なURL、などについて話した。

彼が部屋を内股でぺたぺたと出て行った後、
あたしはまた横になって天井をぼんやり眺めた。
精神科の先生はヘンな人が多いと言うけれど、
そういう寺内先生もけっこう「ヘン」かも、と思った。

外はまだ雨が降っているらしい。
春の温かい雨。
窓際の娘の歌声が聴こえる。
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