第21話 おかまいなし!!

入院8日目。
朝食も激しく完食。
食後下痢をしたが、
食欲はそんなのおかまいなしだ。
腹を壊そうが、胸焼けしようが、
それでも食べたいのが内服ステロイドってやつだ。

この病院には3階に食堂があるが、
食事が普通食に回復のあかつきには、
そこで思いっきり食べてみたい。
それも、油のきつい順、カロリーの高い順に!

ぺたぺたという足音がした。
「関屋さーん、おはよー」
もそっとした声がして、カーテンががらりと開いた。
そこへ寺内先生の丸みのつよい、
ムダにでかい体が入って来て、
「検査の結果が出たよー」
と、1枚の紙をさしだし、ベッドテーブルに置いた。

そして、
「肝機能障害もなくなったし、
予定通り来週末あたり退院」
と、彼は退院が近い事をほのめかしてきた。
「ええー」
あたしは口を尖らせた。
「ま、そういう事だから。
薬つけるので処置室行きましょう」
彼はそう言って背を向け、内股でぺたぺたと歩き始めた。
あたしは靴を履いて、その後を追った。

昼食後、風呂に入ってさっぱりしたついでに、
ほとんど使われていないテレビカードを役立てようと、
風呂場の横のコインランドリーで
洗濯をしてみることにした。

そこへちょうど母がやって来たので、
テレビカードはまたしても使われなかった。
病院の乾燥機はいまいち乾きが悪く、
2回分でやっと乾くといった感じだった。
洗濯が終わるとやる事もないので、母は帰る事になった。

あたしも昨日読んでいた本を読み終えていて、
ひまなので、母を1階まで見送ることにした。
外はけっこうな雨が降っていた。
あたしは正面玄関まで母を見送ったあと、
ついでに喫煙所でメールチェックをした。

その帰り、正面玄関近くの医師名一覧を見て、
丸山先生が教授だという事を知り、びっくりした。
あのヘンなおじさんが教授だなんて!
教授なのに、皮膚科のひげの先生とは違って、
ひとりでふらりとやって来るし!

「関屋さーん」
部屋に戻ってしばらくした時、
寺内...いや、もっさいおっさんがやってきた。
何しに来たのだろう。
「はい?」
あたしはぎろりと田舎のヤンキー風にガンつけをした。

「いや、帰る前にちょっと様子見に来ただけ」
「ふうん...。そういや先生、
あの精神科の先生、なんかおかしいわ。
教授なのにひとりでふらーっとやって来るんだよ?
しかもごはん時に」

「ああ...あの先生だけでなく、
精神科のドクターにはヘンな人が多いんだよ」
「そうかあ、じゃあ丸山先生は“ヘンなおじさん”だな」
寺内先生もあたしもくすくすと笑った。

「ところで先生、入院以来ずっと謎だった外村先生を、
おとといやっと初めて見ましたよー。
ヨーロッパへ新婚旅行に行ってたんですってね」
「...鋭いな。どこから聞いたの?」
「看護師さんから。先生は新婚旅行、行かないの?」

言ってしまってからはっとした。
そういや、このもっさいおっさん、
見た目もうけっこういい年だ。
小学生の子供がいてもおかしくないだろう。
このおっさんが独身だったら、
今の言葉はかなりの嫌味になる。
...いや、このおっさんなら嫌味でも別にいいか。
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