第20話 さらばポチ

「え!ほんと!?」
点滴をはずそうかと寺内先生が言ったのに対して、
あたしは嬉しく反応した。
「そのかわり、スポーツドリンクとかで
ちゃんと水分とるんだよ」
彼は念を押した。

「わかったから、点滴終了してくださいよ。
また点滴漏れとか、さしかえとかやだし」
「じゃあ、点滴終了!」
「やったあ!」
とうとう点滴終了だ。
これで気軽に散歩もできる。
逆流や点滴漏れの可能性もなくなる。
何より、あの恐ろしいさしかえがなくなるのが嬉しい。

しかし、今日1日は点滴をするらしい。
看護師が9時に点滴セットを持って来た時は、
点滴終了と思っていただけにがっくりしてしまった。

それから、ポチつきでメールチェックと買い物。
外は曇って、風が強かった。
いつもプリンだった間食は、午前中はプリンにして、
食事の間が長い午後はバナナにする事にした。

そして今日、やっと本を読む気になった。
母が入院直後に持って来た、
在日韓国人の生活を描いた小説を読む事にした。
読み出してしまったら、それが面白くなってしまった。

もちろん昼食も激しく完食した。
午後は看護師に手伝ってもらってシャンプー。
今日は火曜日だからお風呂は男性患者の日だ。
それから本の続きを読んで、

3時にはおやつのプリンを食べた。
この病院の10階は、西病棟入ってすぐ、
ナースステーションの隣に配膳室があり、
そこに東病棟患者用冷蔵庫が置かれている。
入れる物には部屋番号、名前を書いておくのがきまりだ。
あたしはいつもプリンを部屋番号と名前を書いた
スーパー袋に入れ、冷蔵庫に入れている。
ちなみに配膳室にはオーブントースターもあるが、
それは西病棟専用らしい。

最近、どうも夕方ぐらいに鬱モードスイッチが入るらしい。
今日もいきなりスイッチが入り、
猛烈に死にたくなってしまった。
こういう時、頓服薬がないのは本当につらい。

ちょうどこの日、夕方に「ヘンなおじさん」こと、
精神科の丸山先生がやって来て、
薬についていろいろと話をした。

入院の原因となったもの以外の気分安定薬について。
頓服で飲む、精神安定剤について、
これまで飲んだ事のあるものとその効果など。

あたしは丸山先生に、
「死にたい気分でいっぱいなんですが、
いつになったら頓服出るんでしょうか?」
と、頓服薬を催促してみた。

すると、
「出してあげたいのはやまやまなんだけど、
まだ内臓の機能が回復していないとかで、
主治医の寺内先生がだめって言うのー。ごめんねえ」
と、彼は例の穏やかな口調で処方を断った。
ち。

夕食も激しく完食。
最近はおかゆにゆかりだけでなく、ねり梅も入れている。
そろそろ普通食でもいけそうな感じだ。

消灯時間のちょっと前、
いつもは点滴を一時中断する処置をするのだが、
今夜はそれをしないで点滴針を抜いた。
「お疲れさまです。これで点滴終了です」
看護師が点滴の終了を宣言した。
そして、点滴台を持って部屋を出て行った。
さらばポチ。
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