第18話 新婚旅行!

入院以来まだその姿を見せた事のない、
外村先生の存在は謎だった。
寺内先生が主治医1号なら、
外村先生は謎の主治医2号というところだろうか。

そこで、食事のようすを聞きにきた
看護師に外村先生のことを聞いて見た。
「あのう、入院してから外村先生って見た事ないんですけど...」
「ああ、外村先生ね、今連休中なんですよ。
まだ若い男の先生ですよ」
看護師はそう教えてくれた。

連休中の医師を主治医2号にするとは、
一体この病院はどんな基準で主治医を決めているのだろう。
主治医1号の寺内...いや、もっさいおっさんもそうだ。
案外そのへんにいた医師とか、
すごく適当な基準だったりして!

それが入院5日目で、明けて6日目。
この日は月曜日だったが、祝日だった。
首から上の皮がぼろぼろとむけだした。

朝食を完食してその後、
日曜日と同じく薬つけに自分で処置室に行き、
その前でしばらく他の患者たちと並んで待ったあと、
部屋に入ると昨日の加藤先生と女性看護師1名、
それからもうひとり、見た事のない男性医師がいた。

あたしと同じくらいの背たけだろうか、
小柄でやせ形、浅黒い肌にくっきり濃い顔立ちをしていて、
めがねをかけている。
髪型はちょっとくせのある短めの髪を後ろに流している。
胸元のIDカードを見ると、「外村」と書いてある。
外村...!
あの謎の主治医2号、外村先生か!

「外村先生、はじめて見ましたー。1006号室の関屋です」
「あ、外村です」
「先生、主治医2号なのにずっといないから、
どうしたんだろうって不思議に思っていました」
「連休取ってたんです」
「新婚旅行いってたんですよね?」
看護師が口を挟んだ。

「へえ...新婚旅行!それはおめでとうございます。」
「ありがとうございます」
「で、どのへんに?」
「ヨーロッパに。...疲れました」
外村先生はそう言ってはずかしそうに笑った。
彼の左手で真新しい指輪が光っていた。

あたしも加藤先生も看護師も笑った。
それからいつもどおりの薬つけに入った。
今日も寺内先生はいないっぽい。

朝10時頃、売店で買ったバナナに挑戦し、
なんとか1本食べきった。
昼食も激しく完食してしまった。
いよいよ内服ステロイドの副作用が始まったらしい。

食べたい。
食べたい。
食べたい。
空腹、満腹に関係なく、
食欲が心の底から次から次へと
突き上げるように湧いて来る。
まだ口の中が完全に治っていないのが、
なんとももどかしい。
まだちょっと大きい口内炎程度の傷口が残っている。

...そういや。
なんだかゆうべあたりから口の中がつるつるしている。
あたしはベッドテーブルの上の鏡を取って、
口を大きく開け、舌を出してみた。
何これ。
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