第16話 新しい部屋

「今日から新しくこの部屋に
入る事になった関屋ひとみさんです」
部屋に入ってすぐ、
看護師が部屋のみんなにあたしを紹介した。

ここの部屋はみんながカーテンを全開にしていた。
窓際に若い人が2人、
まん中に中高年の人が4人、
あたしの向かいには老人がいた。

「よろしくお願いします」
あたしと母はみんなに軽く挨拶をした。
カーテンを全開にしている事から、
ここの部屋の人間関係は密とみえる。
...なんだかうるさそうだ。

テレビ台と衣装ケースが遅れてやって来て、
引っ越しは完了した。
母がベッドの上に置いた着替えをそこにしまい、
あたしはテレビ台まわりのものを元どおりに直した。

そうしているうちに、
なぜか部屋には誰もいなくなり、
あたし達親子だけとなった。

ちょうどいい機会なので、ここでカーテンを閉めた。
あたしが寝ているこの壁際のスペースは、
まん中のスペースよりちょっと広くとられている。
カーテンはあたしから見て右側のテレビ台の横から、
壁際の半分まで閉めることにした。

母はあたしにこそりと、
「あんまり部屋の人とは関わらないように」
と、言った。
物のやりとりがあると面倒だという意味だが、
あたしはひとりで静かに過ごしたいのと、
仲良くなってしまうとあとでつらいので、
「そうする」
と、あっさり返事をした。

母は道路が混む前にと、また夕方早めに帰宅した。
横になっていてもなんだかだるいので、
熱を測ってみたら37度0分あった。
この日、夕食にはまだ苦手の魚が出なかったので、
完食することができた。

夕食後から消灯時間の直前まで、
窓際左側の少女がひとり、
とぎれる事なく延々と歌を歌っていた。
この歌がくせ者だった。
特に上手いでも下手というわけでもない。

あたしの中で乳幼児の泣き声が
最も耳障りだと思ってきたが、
この少女の歌声はそれに匹敵する。

そこで、今朝プリンのついでに買った耳栓を思い出し、
さっそく両耳につっこんでみた。
...あまり効果はないようだ。
耳栓をしていても、
少女の歌声があたしの鼓膜を追いかけてくる。
やめろ!!
あたしは心の中で静かにぶち切れていた。
それが入院4日目だった。

入院5日目。
この日は日曜日だった。
睡眠薬と耳栓で6〜7時間ほど眠れた。
なんだか下前歯がかゆい。
顔はより皮がむけて、いい感じだ。
起きて間もなく下痢をして、
腹がごろごろするものの、朝食は完食できた。

その後、いつもの朝の回診時間になっても
寺内先生がやって来ない事に気が付いた。
どうしたのだろう。
日曜日だし、彼も休みなのだろうか。

寺内先生て、いるとなんだかでかいから邪魔だし、
もっさいからうっとおしいんだけど、
いないとちょっと淋しいかも。
あ、淋しいったって、ちょっとね、ほんのちょっと。
親指と人さし指がつくかつかないかくらいね!
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