第14話 中でぐりぐり!!

ゆうべの続きがいよいよ始まるかと思っていたのに、
なかなか始まらず、
無駄に緊張する時間が流れて行った。

タオルがすっかり冷えて、
意味をなさなくなった頃、
ようやく寺内先生がやってきた。
「じゃあ始めますか」
「先生、あっためるって言ってたのに、
タオルすっかり冷えちゃって、意味がないですよう」

遅れて看護師が点滴さしかえセットを持って来た。
...いよいよか。
あたしは仰向けになった。
寺内先生はゴムであたしの右腕をぎゅうと縛り、
もはやお決まりとなった手つきで
さわさわと挿入ポイントを探し始めた。

「うーん...」
彼はまた難しい顔をしていた。
まゆ毛がつながっているのは昨日と同じだが、
まつ毛もばさばさと量が多くて長い事に気が付いた。
まつ毛の件に関してはうらやましいかも。

「このへんかなあ...」
寺内先生は、前に点滴を挿していた場所から
ちょっと上のポイントを、とんとんと指で軽くたたいた。
そして、そこをアルコール綿で拭いて、
点滴針を挿入する器具を手にしようとした。

その時、針セットを倒してしまい、
新たに別のセットを看護師に持って来させた。
そしてもう一度ポイントを指先で確認して、
あらためて点滴針を手にした。
これがまた通常の注射針より
長いわ太いわで嫌な感じだ。

「うーん、やりにくいなあ。ちょっと座っちゃうね」
彼はそう言って、ベッドの端に体の右半分だけ腰かけた。
おいおい、ベッドには患者以外
腰かけちゃいけないんじゃないのか?
いや、それとも医師はいいのか?
寺内先生はまた挿入予定ポイントをとんとんと指でたたいた。

「失礼します」
そして針をぷすっと挿入した。
「うっ!!」
あたしは声をあげた。
いつやられてもこれは痛い。
しかも、なんか中で針をぐりぐりと動かしているではないか!!
この「中でぐりぐり」はさらに痛い。
寺内先生はあたしの中で執拗に針をぐりぐりと動かした。
...お前、それ絶対楽しんでいるだろう!?

「だめだー...!」
寺内先生はあれほど執拗に
ぐりぐりしていた点滴針をすっと腕から抜いた。
針が太いので抜く時もけっこう痛い。
実はこいつ、下手な男なのでは!?

「先生、また失敗ですか...!!」
「...あのさ、左じゃだめ?」
「ええー!」
「左だとなんかいけそうな気がするんだけどなあ...」
「トイレに行く時不便だからだめ!」
あたしは寺内先生の提案を断固拒否した。
「だめ?」
彼は笑いながら押してきた。
笑うと目尻にしわが寄って、よりおっさんぽい。
「だめ!」

「しょうがないなあ」
彼はまた右腕をゴムでぎゅうと縛り、
さわさわと挿入ポイントを探し、
ここはと思うポイント周辺を指で軽くたたいて
アルコール綿でそこを拭いた。

「失礼します」
太い点滴針がまたあたしの中に入って来た。
「んっ!!」
あたしもまた声をあげてしまった。
今度はどうだ!?
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