第13話 処置室送り

点滴さしかえ準備が整うと、
寺内先生は一旦点滴を抜いて、
例の痴漢チックな手つきでさわさわと、
針挿入ポイントを探し始めた。

...やっぱりまゆ毛がつながってる。
あたしは針挿入の瞬間を見たくなくて、
わざと寺内先生の顔をじっと見た。
彼は何度も何度もさわさわと、
挿入ポイントを探して、必死そうな表情をしていた。

あたしもあたしで、
いつ針が入って来るのかとどきどきだった。
そんな張りつめた空気の中、
「だめだー!!明日あっためてやり直し!!今夜は点滴終了!!」
とうとう寺内先生は根をあげた。
...ちょっとほっとした。
でもどうせなら一気にやってほしかったな。

この病院では保護...いや、処置室という個室がある。
差額ベット代のかからない個室だ。
昼間は形成外科処置室として使われている部屋だから、
定員は1名だ。
なかなか寝付けない人や、
みんなが起きている中で
ひとりだけ寝ている人が収容される。

昨日は左隣のばあさんが、
午後からずっと大いびきをかいて寝ていたので、
夕方頃に処置室送りとなった。
今夜はあたしが処置室送りの番だ。

点滴終了後、間もなく看護師がやって来て、
「関屋さん、今日は処置室空いてますから、
早めに移りましょう」
と、言って移動の準備をしに、一旦その場を離れた。
処置室にはベッドごと移動する。
この間、あたしは貴重品など、
処置室に持って行くものをベッドの上に乗せておいた。
看護師が戻って来て、
ベッドごとあたしを移動させはじめた。
この病院は広いから、手術も部屋移動も
場所移動も全てベッドごと移動できる。

処置室にはベッドとあたしと、テーブルがやってきた。
プチ引っ越しといったところだろう。
明日のいい予行演習だ。
消灯までは今日の分の日記を書いて過ごし、
それからは案の定眠れなくて、
せっかくだからと薬を塗って、ぼんやりと横になっていた。

すると、ナースステーションの会話が
この処置室に筒抜けであるという事に気が付き、
耳を澄ませてその会話を聞いて見る事にした。

ナースステーションではどうやら、
看護師たちの食事の時間らしく、
看護師たちが食事用のテーブルに集まり、
宿直の医師にも一緒に食べませんかと声をかけていた。

それから、なにやらみんなで
医師を純情だなと冷やかしている様子や、
食べるお茶っ葉がどうのといった事などが聞き取れた。
...お前ら全員おもしろすぎ!
あたしは彼らにツッコミを入れたくてたまらなくなった。
おかげで睡眠薬を飲んでいるにもかかわらず、
12時近くまで眠れなかった。
それが入院3日目だった。

入院4日目。
6時起床だがそこは実質7時起床、
そのまま眠るでもなく起きるでもないまま、
7時頃にまたベッドごと病室に戻って、朝食を食べた。
薄味のおかずやジュースなど、
だんだん食べられる物が増えて来た。

朝食後は恒例の薬つけの時間だ。
寺内先生が内股でぺたぺたとやってきて、
「関屋さんおはよう、薬つけましょうか」
と、独特の訛りでもそりと言いながら、
がらりとカーテンを開ける。
なんかこのおっさん、おとといから同じ服だ。

あたしはとりあえず田舎のヤンキー風に
ガン付けをしてから、はーいと返事をして、
彼のあとについて皮膚科処置室に入る。
それからさわさわと痴漢チックに薬をつけてもらう。

ここまでは昨日と同じだ。
しかし、今朝はこのあとゆうべの続きがある。
薬つけのあと、しばらくして
看護師が蒸しタオルを持って来て、
あたしの右手にそれを巻いて行った。
いよいよ始まるのか...!?
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