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第八話 だめ
俺の突然の告白に、東子は黙り込んでしまった。
当然の反応だ。
でもそれはほんの一瞬のことだった。
彼女はふっと笑って、
「…だめ」
と、力なく言った。
とても透明感のある一言だった。
暑いはずのカフェのテラス席に一瞬涼しさが通った。
「何が…」
言いかけて、俺はやめた。
彼女はまだ「マコト」の事を忘れていない?
きっとそうだよな。
バッグと指輪を長い間大事に使い込んでいたくらいだもんな。
「マコト」への想いがまだ残っていても無理ないな…。
俺が告白して。
東子がそれを断って。
だからといって二人の間が気まずくなる事はなかった。
むしろ、それを機会により仲良くなったように思う。
いつものようにゲーセンで会って。
時々はプレイ後、飲みに行って。
八割の確率で彼女が俺を遊びや買い物に誘って。
十二月の俺の誕生日には、いつもよりちょっといい店で祝ってくれ、
「THE ぎょうざ M@STER」グッズのプレゼントまでくれた。
それからすぐのクリスマスイブも、メールで東子に呼び出され、
彼女が予約しておいたイタリアンの店で食事をし、
プレゼントを交換しあった。
正月にはニューイヤーメールが届き、
着物姿の彼女と一緒に初もうでに行った。
バレンタインデーには、チョコをもらった。
いかにも義理チョコといった感じのものではく、
本命チョコかと見まごうばかりの値段と気合いが感じられるもので、
熱っぽいカードまで添えられてあった。
つき合ってもいないのに、
つき合っている者同士以上にラブラブな感じだった。
そのラブラブさについ期待してしまい、
俺は何度も告白してしまったが、東子の答えはいつも同じだった。
透明な「だめ」。
このぬるい生殺し状態に悩みながらも
どっぷり浸かってしまっている二月のある日、
東子と二人ごはんでも食べてからゲーセン行こうかなどと話しながら、
質屋のそばの大通りを歩いていた。
その前方から、俺と同じ年頃のやや小柄で太り気味の男が歩いてきた。
それを見た東子は目を見開いて立ち止まってしまった。
「マコト…」 |
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