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第七話 はるっぴぎょうざ
東子と一緒にデパートの販売イベント…。
これはもうデートみたいなもんだ。
これは絶対行かねば!
「日曜日、休みだからそれでいい?」
ちょっと声がうわずってしまった。
「よかったあ…勝ちゃん、忙しそうだから
断られたらどうしようってどきどきしてた」
東子はほっと胸を撫で下ろした。
東子がそんな思いで俺を誘ってくれたなんて嬉しすぎる。
俺もどきどきだ。
約束の日、東子とはゲーセンや質屋のある駅の東口改札に、
朝十時集合だった。
俺が約束の時間の十五分前につくと、そこにはもう東子がいた。
「勝ちゃん!」
東子は嬉しそうに俺の名を呼んだ。
「おはよう。東子さん、もう来ているなんて…」
「不安で三十分前に来ちゃった」
東子は恥ずかしそうに言った。
彼女は濃いピンクのカットソーに黒のパンツ、黒のスニーカー、
デニム生地のハンドバッグといったカジュアルな格好をしていた。
メイクも夜会う時より薄かった。
こういう東子もいいなと新しい発見をした。
大通りを渡って大きな公園のある方へ
五分ほど歩くと会場のデパートに着く。
デパートの正面入口にはすでに多くの人がいた。
中にはいかにもゲーマーといった感じの男性グループもあった。
俺と東子はなるべく入口に近いところで
一時間ほど開店を待って中に入った。
催事場では、まず「THE ぎょうざ M@STER」の大きな看板が目に入った。
東子は店内撮影禁止なのを残念がった。
会場は販売スペースと飲食スペースに分かれており、
飲食スペースは広くとられてあった。
俺たちはまず飲食スペースに入り、
ぎょうざ全種類と熱いウーロン茶を注文した。
ぎょうざは十分ほどして出て来た。
何はともあれ、まずは肉ぎょうざである。
「これが東子さんの肉ぎょうざか」
東子の肉ぎょうざはいわゆる「羽付き」で、やや厚めの皮、
よく練られた肉にほどよくキャベツやにらなどの野菜が入り、
にんにくが効かせてあった。
それを一口かじると、
小龍包のように中から肉汁がじわりと溢れ出して来た。
選ばれるのも納得の旨さである。
「こうやって自分の手がけたぎょうざが商品化されるなんて感激」
東子は自分のぎょうざを眺めてうっとりとした。
そしてそれを食べてまたうっとりした。
「おいしい」
「ごはんが欲しくなるね」
この飲食スペースではぎょうざや飲み物の他に、
ごはんやスープなどがメニューに載っていた。
「だめよ、まだ他のぎょうざも食べるんだから」
東子の言う通りで他に野菜ぎょうざ、えびぎょうざ、
水ぎょうざ、ひすいぎょうざ、にらぎょうざ、
鳳凰の目ぎょうざ、フカヒレぎょうざ、
デザートのスイートポテトぎょうざ、あんぎょうざと
十種類も食べなければならなかった。
えびぎょうざ、水ぎょうざ、にらぎょうざ、
フカヒレぎょうざはおなじみだが、
ひすいぎょうざは米粉の皮にほうれんそうが練り込まれてあり、
ひすいの名の通り緑色の皮をしていた。
鳳凰の目ぎょうざは、具にえびとカニみそが入っていて、
四角い皮で口を開けた状態で包まれてあり、
上にとび子の白目、グリーンピースの黒目で鳳凰の目をかたどっている。
デザートのスイートポテトぎょうざと
あんぎょうざは揚げぎょうざである。
東子の肉ぎょうざ、野菜ぎょうざ以外は
点心として少しずつ皿やせいろに盛られてあり、
ちょうど良い飲茶となった。
ひとしきりぎょうざを食べた後、
俺と東子は販売スペースを見て回る事にした。
「THE ぎょうざ M@STER」では、
自分のぎょうざに好きな名前を付けられるようになっており、
それがそのまま今回のイベントでも商品名として使われている。
東子の肉ぎょうざの名前は
「はるっぴぎょうざ」とごく単純なネーミングだった。
その他のぎょうざにも変な名前のぎょうざが無い事からして、
たぶんネーミングも採用基準に含まれていたのであろう。
俺たちは東子のぎょうざと、あと数種類のぎょうざを買い、
冷凍とはいえなまものを持ち歩いてぶらぶらする訳にはいかないので、
駅で別れることにした。
「勝ちゃん、これあげる」
別れ際、東子はデニム生地のハンドバッグから、
飲むタイプの口臭止めを出して、それをケースごと俺にくれた。
「明日。仕事でしょ」
「そうか…ありがとう」
「勝ちゃん、今日はありがとね。ほんと楽しかった」
「俺も」
「今度はゆっくり遊ぼうね、絶対よ。それじゃ!」
東子は駅舎の中へとぱたぱたと小走りに駆けていった。
…俺と東子の初デートはひとまず成功といっていいかな。
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