第六話 マコト

東子が売りに持ち込んだブランド品のハンドバッグも、銀の指輪も、
傷だらけで汚れがひどかった。
そして古かった。

つまり、それだけ長い間大事に使い込んでいたという訳だ。
東子はきっと、彼の事をすごく好きだった。

彼の名前は「マコト」って言ってたっけ…。
「マコト」は一体どんな男だったのだろう。
東子の派手なルックスからして、「マコト」も派手そうな感じがする。
俺は女心をつかんで離さないホストの姿を想像した。

東子と「マコト」との間には、一体どんな出会いがあって、
どんな時間が流れて、どんな別れがあったのだろう。


「そういえば勝ちゃんはどこの支店に所属してるん?」

ある梅雨のはじめの晩、ゲーセンで会った東子が聞いて来た。
「THE ぎょうざ M@STER」というゲームは携帯サイトと連動していて、
仲間を集めて「支店」を作る事ができる。

「支店」では、所属する「店員」の売上合計を「支店売上」としており、
「店員」の数の多いところや、
東子のようなランカーがいるところほど有利になっている。
「支店売上」は、毎週携帯サイトでトップ二十まで発表される。

「いや…まだデフォの本部所属だけど」
「ならうちの店に来なよ」

これはすごい。
トップランカー直々のお誘いだ。

彼女が「店長」をつとめる「支店」はランカー揃いで、
全国支店売り上げランキングでも常に上位に入っている。
これは受けるしかないだろう。

「支店番号とパスは?」

「支店」に加入するには、支店番号とパスワードが要る。

「このあと一緒に飲んでくれたら教えまーす」
「じゃあ、飲みに行きまーす」

…まいったな。
東子からの誘いを断れない俺がいる。
彼女のペースに巻き込まれて、
完全に彼女の言いなりになってしまっている。


東子と飲む店は、いつも大体ゲーセンの近くにある
大手チェーンの居酒屋だった。

彼女はいつもビールから始めて、サワー、カクテルに移り、
それから日本酒か焼酎になる。

つまみには必ずポテトフライとサラダを頼み、
あとは刺身、マリネ、カルパッチョなどのなまものを食べたがった。

たばこは鈍い青色をしたソフトパッケージの、
何て読むのかわからない、両切りのものだった。

そうやっていつものように飲み食いしていると、
話は自然に「THE ぎょうざ M@STER」の事になった。

「そういや東子さんのぎょうざ、選ばれたんだよね。おめでとう」

最近、ゲーム会社と食品会社、デパートが協力して、
優秀なぎょうざを実際に商品化して販売しようというイベントがあり、
東子の応募したぎょうざが選ばれた。

それも最も難しい「肉ぎょうざ」で。
俺の応募していた「ひすいぎょうざ」は残念ながら選にもれてしまった。

「ありがとう勝ちゃん。はっきり言って自信なかったんだけど…」
「皮がもちもちで肉汁たっぷりだってネットでも評判じゃん」
「ネットでは…ね。あ、そうだ勝ちゃん、
デパートでの販売イベント、一緒に行かない?」

これは!
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