第四話 東子

「東に子供の子で『東子』。ちょっと読めないでしょ?」

H@RUKO…東子はふふっと笑った。
確かに「東子」じゃ「とうこ」が普通だ。

「行こ、南さん」

彼女は俺の腕を引っ張った。
…まあいいか。

「知ってる店に連れてくとか言って、ボッタクるのは無しだぞ」
「あたし、そんな女じゃないもーん」

彼女はピンクの口紅に、リップグロスが塗られた唇を、つーんと尖らせた。

「絵とか宝石なんかも買わねえぞ」


結局、東子と入った店は大手チェーンの安い居酒屋で、
会話の内容も絵や宝石どころか、
ひたすら「THE ぎょうざ M@STER」の事ばかりだった。

彼女の見た目はいかにも水商売か風俗嬢といった感じなのに、
口を開くとコテコテのアキバ系だ。

コミケとか同人とか声優とかいう、
アキバ系の単語が次から次へと休む間もなく出てくる出てくる。
そして「THE ぎょうざ M@STER」のトップランカーである事が、
東子がアキバ系だという何よりの証拠だ。
この女、ディープ過ぎる…!


「そういや、東子さんは仕事、何してるの?」
「廃人でーす!」

…いや、確かに「THE ぎょうざ M@STER」トップランキング
…俗にいう廃人ランキング上位者だけど…。
まあ、つまり「ひみつ」って事か。

「じゃあ、どこらへんに住んでるの?この近く?」
「ひみつ」

東子はくすっと笑った。

「ひみつが多いね」
「ひみつは女を美しくするんですぅ」

そう言って、彼女は日本酒をひとくち飲んだ。

それにしても東子はよく飲み、よく食べる。
そして男の俺でも吸わないような、きついたばこをよく吸う。

将来誰かと結婚して、子供を作る事など考えていないのだろうか。
彼女の金のかかった身なりといい、
ゲームのトップランカーである事だってそうだ。

夜、ゲーセンでよく会う事から、彼女は夜の女ではない。
彼女が普通に働いているとしても、
この様子では貯金もろくにないだろう。

彼女の生き方は享楽的だ。
そして、とても刹那的だ…。
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