第三話 H@RUKO


「あれ…」

俺と彼女…例の粘る女は、同時に同じ事を言った。

「…あの、こないだの質屋さんですよね?」

驚いた。
俺の事覚えているなんて。

「はあ…先日はどうも…」
「いえ、こちらこそ…こないだはいろいろ無茶言ってごめんなさい。
あの時は頭に血がのぼってて…」

彼女はしおらしく謝ってきた。
これがこないだの粘る女と同一人物か。
…水商売風の派手な格好は同じだが。

「そんな…気にしないでください。
それよりもまた何かあったら遠慮なくどうぞ」

俺も彼女につられて、思わずかしこまってしまった。

「ね、質屋さんもこのゲームにはまってるの?」

彼女の口調が急に変わった。
まるで友達にでも話しかけるかのように。

「うん、まあ…始めたばっかだけど」

俺は彼女の隣のサテに座って、コインを入れた。

「ふーん…」
「ハルコさん、知り合いすか?」

取り巻きのひとりが彼女に言った。
「ハルコ」というのか…。

「この近くの質屋さんなの。こないだ大分迷惑かけちゃってさ…」

俺がプレイしている横で「ハルコ
は、
取り巻き達と楽しそうに話していた。

ちょっと待て。
「ハルコ」?

俺は思わず彼女がプレイしているサテのモニタを覗いてしまった。
プレイヤー名が「H@RUKO」となっていた。

「H@RUKO」…すごい、いつもセンモニで見る名前だ。
ここ最近トップ10から落ちるのを見た事がない、雲の上の人だ。

この夜以来、俺と「H@RUKO」はよくゲーセンで顔を合わせるようになった。
俺がゲーセンに行くと必ずいるといった感じだ。


「H@RUKOさん、確かホームはここじゃなかったよね…?」

ある晩、彼女と顔を合わせた時のプレイ後、俺は聞いた。

「うん、前はね。撤去されちゃったからここに移ったん」
「このゲーム、新しいのにどんどん押されてるからなあ…」
「質屋さんはいつも仕事の帰り?」

俺は「肉球ぎょうざ」という名前でプレイしているが、
彼女からは「質屋さん」と呼ばれ続けている。

「まあね」
「じゃあさ質屋さん、このあと飲もうよ?」

また「質屋さん」て言った。

「あのさ…俺、『質屋』じゃなくて、『南』っていうんだけど」
「ごめん。で、『南』って苗字?名前?」

普通、男で「南」といえば苗字だろうが。
ヘンな事いう女だな。

「苗字。H@RUKOさんはやっぱり名前が『ハルコ』さんなの?」
「そ、『ハルコ』だよ。何て字書くと思う?」

彼女はにやりと笑った。

「春に子供の子?」
「ぶー」
「晴れに子供の子?」
「ぶー」
「治療の治に子供の子?」
「ぶー」

「ハルコ」といえば、「春子」、「晴子」、「治子」、
このぐらいしかないだろう。
あとはひらがなかカタカナぐらいなもんだ。

「じゃあ、何て書くんだ?」
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