第二話 THE ぎょうざ M@STER


俺の勤める質屋の近くには大きな公園がある。
もともとは武家の屋敷地だったところで、
現在は有料の国立公園になっており、
日本庭園と西洋庭園、温室などで構成されている。
そこの桜ももう満開を過ぎて散り始めていた。
あれから三日後の事である。


俺は最近、「THE ぎょうざ M@STER」なる
アーケードゲームにはまっている。

プレイヤーが大手ぎょうざチェーン店の開発担当員となって、
売れるぎょうざを開発するという設定で、
その中の「本部試食会」はオンライン対戦となっている。
俺はこのゲームを始めてまだ間もないので、
駆け出しといったところだ。

「THE ぎょうざ M@STER」は、
センモニと呼ばれる中央の大きなモニタと、
サテと呼ばれる個別のゲームマシンに分かれている。

センモニには試食会を通過したぎょうざの店頭販売風景と、
開発担当員別の売り上げトップ百までが表示される。

俺は大抵仕事の帰りに、店の近くのゲーセンでこのゲームをプレイする。
このゲーセンはいつ行っても大音量の音楽、
喫煙コーナーのたばことトイレの消臭剤が混ざった独特の臭いで充満している。
「THE ぎょうざ M@STER」のサテでは見かける顔も大体決まっている。

俺よりももう少し年上らしきスーツ姿の男、
「THE ぎょうざ M@STER」Tシャツを着て、頭にタオルを巻いた男、
鼻歌を歌い、体を揺すりながら「本部試食会」に臨む男など。
「本部試食会」で負けると台をバンと叩いたり、
他のプレイヤーを通りがかりに後ろから蹴ったりして
出入り禁止になった男もいたっけ。

俺は大体五百円分くらいプレイして、ゲーセンの臭いを体にくっつけて帰る。

しかし、その夜はいつもと違っていた。
そのゲーセンに四つあるサテのひとつに女が座っていたからである。

「THE ぎょうざ M@STER」は、
他のゲームと比べて女性プレイヤーが極端に少ない。
だから女性プレイヤーは目立つのである。

その女性プレイヤーの後ろには、
ゲーマーとおぼしき男が二人立っていて、
彼女のプレイを覗き込んでいた。
そして彼らは時々おおっ、と歓声をあげた。

問題の女性プレイヤーは、
ちらりと見た限りではこのゲームにふさわしくない、派手な女だった。
ふとした拍子に彼女が振り返った。
彼女は例の粘る女だった。
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