第十二話 ハルブログ


その日、自分の部屋に帰ってすぐ、
若月さんから教えてもらった東子のブログに接続した。
ブログのタイトルは「Spring has come again!」。

「再び春が来た」…。

東子はそのブログでは「ハル」と名乗っていた。
ピンクを基調としたスキンで、濃い灰色の十ポイントで書かれていた。
一番上にあるのが最後の記事だろう。



三月二十六日
それでも勝ちゃんに出会えてよかった。



最後の記事はそれだけだった。
俺は前の記事をさかのぼって見る事にした。



三月十六日
鬱が来た。
全てが理由もなく虚しい。
生きる意味を見出せない。
なぜかって聞かれても理由がないから答えようがない。



二月二十日
勝ちゃんと二人でいるところにマコトと会ってしまった。

会いたくなかった。

しかもマコトの口から「退院」という言葉が出た。
勝ちゃんには病気の事、知られたくない。
もし、知られてしまったら。

勝ちゃんの事だからきっと、
「俺は気にしないし、お前の事を守る」
などと言うだろう。

前にもそう言った人がいた。
マコト。

マコトは最大限の努力をしてくれたけど、
結局あたしが彼を振り回して、最終的に彼を潰してしまった。

ごめんね、マコト。
勝ちゃんには同じ事しないから。



俺が何度告白しても、東子が断り続けた理由が今やっとわかった。
彼女の言う「だめ」の持つ透明感の意味も。

もし若月さんが遊び人で、東子との恋愛も一時の遊びだったならば、
ただの思い出にしか過ぎなかっただろう。

しかし彼は真剣に東子を愛し、彼女との将来を考えた。
彼女もまた、若月さんの事を深く愛していた。

それほどの過去があったのでは、
「だめ」という言葉が透明感を帯びてしまうのも当然だ。
あれは東子の諦めが醸し出す透明感だったのだ。



二月十四日
今日はバレンタインデー。
思いきって勝ちゃんにチョコあげちゃいました!
ありったけの想いを込めたカードと一緒に。



十二月二十四日
クリスマスイブ。
特別な日。
ちょっと強引だったけど、勝ちゃんに逢えた!
しかも、かわいい腕時計をくれた!
絶対大事にしよう。



十二月十八日
勝ちゃんの誕生日。
おめでと〜!
でもあたしのプレゼント、ちょっとセンスなかったかも…。



十一月二十一日
勝ちゃんからの告白。
これで三度目。
だめって断りながらも、仲良くし続けている。
あたしはずるい女だ。
そして弱い女だ。



十月三十日
また勝ちゃんに告白された。
真面目なだけにつらい…。
勝ちゃんはどのくらい、どのくらい深くあたしの事好きなの?



九月十三日
勝ちゃんに告白されちゃった!

「俺ら、つき合わない?」

だって!

でも、断ってしまった。
ほんとはすごくすごく、勝ちゃんの事、好きなのに。
ううん、だからこそ断った。

あたしの大事な人。

あたしなんかとつき合ったら、勝ちゃんはつぶれてしまう。
だから。



…東子は俺の事を好きでいてくれてた!
しかも、俺が東子を想うよりずっと深く、強く。
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