第4話 パン屋の前で

高校受験の際、俺は必死に勉強して進学校に行ったが、
ユウジは高卒で就職するつもりだったので無理する必要がなく、
少しレベルを落として今の普通校へ行った。
おかげで彼は高校生活を思う存分楽しんでいる。

俺はというと、もともとの出来が良くないから、
高校でも予備校でも苦労しているありさまだ。

「よし!今度の土曜日、俺がお前のためにコンパやってやる」

公園備えつけの灰皿に短くなったたばこを捨てて、
ユウジは言った。

「乗り気じゃねえなあ...」
「すぐやれる女を何人も用意してやる。
あの女なんかすぐにどうでもよくなる。
いいか、当日はきめて来い。
間違っても今みたいな格好で来るな」

俺はユウジだしと、部屋着の濃い灰色のカットソーと
古いジーンズにコートを羽織っただけの服装で、
髪も勉強中にかきむしってぼさぼさのまま、
めがねも勉強用の縁なしタイプと、
まあアキバ系の弟とさほど変わりない格好で出て来ていた。

ユウジとはそれからしばらく雑談して別れた。

ユウジの主催するコンパは一度だけではなかった。
彼の持つ人脈の全てをもって、何度も催してくれた。
コンパ自体はどうでもよかったが、彼の好意がうれしかった。
それでも時々は誘われるまま、女と寝たりもした。

少しは気がまぎれるだろうかと思ったものの、
女と寝ている時ほど彼女の事がいやに思い出され、
恋しさと虚しさがいっそう募ってくるのであった。

その頃にはもう、勉強には少しも身が入っていなかった。
模試ではだいぶ成績を落とし、母から叱られてしまった。

高校3年生になって間もないある日の晩、
俺は予備校からの帰りだった。
駅から商店街へとぼとぼと歩いていると、
視界の先に一人の女が目に入った。
その女は商店街の始点近くにある、
ケイちゃん家のパン屋の前をうろうろとしていた。

俺の家はこのパン屋の先にあるので、
そこを通り過ぎようとすると、
女の顔が街灯に照らされてはっきりと見えた。
...彼女だった。
そして彼女とぴったり目が合ってしまった。
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