第3話 ケイちゃん

ケイちゃんと彼女が俺に気付かず、
そのまますれ違って行った。

まあ、俺と彼女とケイちゃん、ユウジとその彼女で
一度会っているので、二人は顔見知りといえるが、
どうして一緒にいるのか不思議だった。

あの彼女の事だから、俺の知らないところで
ケイちゃんにも目をつけていたのかもしれない。
それとも、ケイちゃんが
俺の手前言い出せなかっただけで、
彼女の事をずっと好きだったのかも知れない。

嫉妬がさまざまな憶測を呼んだ。
嫉妬している自分が情けなかった。
俺はまだ彼女の事を少しも忘れていない...。
彼女が初めてつき合った女という訳ではなかった。
でも、俺が自分で告白してつきあった女は彼女が初めてだった。
それだけに彼女への想いはひとしおだった。

その晩、勉強しているところへケイちゃんからメールが入った。

「将やんの敵は俺が取る。見てろ」

ケイちゃんが彼女と一緒にいたのはそういう訳だったのか。
俺はすぐに、

「やめとけ」

と、返信した。
すると、彼から電話がかかって来た。

「どうして?あの女にあそこまでされて黙ってる気かよ?」
「...いや、もう済んだ事だし」
「将やんの気が済んでも、俺があの女を許さん」
「おい、何する気だ」
「まあ楽しみにしてろ。じゃあな」

とりつくしまもなく電話は切れた。
俺はユウジに相談しようと電話し、
彼と近所の公園で落ち合った。
俺が首を切ったあの公園である。

「どうしたんだよ、相談って」

フードにファーのついたミリタリージャケットを着たユウジが、
ベンチに座って話を切り出した。
ユウジは髪を金髪に近い茶色に染めているから、
こういう格好がよく似合う。

「ケイちゃんが彼女に復讐しようとしてる」
「...まあ、ケイちゃんのやりそうな事だな」

俺たちはそれぞれ持っていたたばこに火をつけた。

「なんとかしてやめさせられねえかな」
「俺はケイちゃんの事止める気はないね」
「なんでだよ」
「俺もあの女のした事は許せねえ。
大体、将やんはごつい体してるくせに気が弱すぎるんだよ。
そんなんだからあの女にもなめられるんだよ」

そういうユウジは身長も160センチ未満と体が小さく、
反対に190センチ近い俺と並ぶとまるで大人と子供だった。

「なめられてるって...!」
「なめられてるだろうが。だからあんな事されるんだよ」

俺は彼女を殴った事を言えなかった。
言ってしまったら、ユウジに軽蔑される気がした。

「...ケイちゃん、彼女に何をするつもりなんだろ」
「まあ俺だったら、
その場でぱーんと暴れて終わりってところだろうが、
ケイちゃんならねちねちといきそうだな。
...そうだな、お前と同じ苦しみを味わわせるとか」
「......」

俺は思わず黙り込んでしまった。
やる!
あのケイちゃんなら、それをきっとやり遂げる。

「将やん」
「ん?」
「この期におよんであの女の心配なんかするのはやめろ。
ケイちゃんは自分の意志で動いてるんだし、
その結果あの女がどんな目に遭おうとお前には関係ねえよ」

ユウジの言う事はもっともだ...。
俺は反論できなかった。
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