第37話 In My Room


ちひろは俺のあとをおとなしくついてきた。
こいつの事だから、何も考えていないに違いない。
そういえばちひろはその家の2階もだったけれど、
俺の部屋も初めてだった。

俺の部屋はオレンジ色のちょっと暗い照明で、
入ると濃いたばこの匂いがする。

廊下の突き当たりにある8畳の和室で、
入った正面に低いベッド、
左手の窓際に古い濃い赤茶色の木製の机と椅子、
部屋の真ん中に灰色のラグが敷かれてあった。

この部屋に入る人みんなが言うことだが、
たばこの匂い以外は生活感がいまひとつ薄かった。

俺はちひろが部屋のドアを閉めると、
押し入れを開けて木製のコレクションケースを出した。

コレクションケースはひとつでは足りず、
どんどん数が増えていくばかりだ。
俺はケースの一つを開けた。
わりと使用頻度の高いメガネのケースだ。

「あ、これ学校で見た」

ちひろは細い楕円のフレームのものを取って見た。

「これも見た。これは知らない」

俺はサングラスのケースを開けた。
祖母がパリから送ってきたのを中心に、
とりわけヘンなものが入っている。

「えー、何これ!?こんなのいつかけるん?」

ちひろは嬉しそうに
しましまのフレームのサングラスを手に取り、
それをかけてみた。
ヘンな顔だ。

「それ、もらったものだから
俺もいつかけるかわかんねえ」

「今度学校にして来なよ」

ちひろはしましまフレームのサングラスを
元の位置にしまった。

「やだよ」

俺はそのケースを閉じ、次のケースを開けた。
ちひろにはまだ見せていない顔がある。



俺が箱をしまっている間、
ちひろは机の隣の本棚に並んでいる
本の背表紙を見ていた。

この本棚には、教科書のほかにハードカバーの本、
文庫本と並んでいるが、漫画はない。

「ねえ、漫画読まないの?」

「読むけど、ほとんどユウジの借りて読むから、
買う必要がないって感じ?」

ユウジは漫画が好きで、
部屋の本棚に新しい漫画をぎっしりと詰めている。

「ふーん...。じゃあさ、エロ本は?
どこに隠してあるん?」

ちひろがいきなりそんな話題をふってきたので、
俺はどまどってしまった。

「...んー、なんちゅう事いうかなあ、この女は。
まあ、見るよ、俺も男だし...って、何て事言わすんだ!」

ほんとに何て事を言わせる女なんだ。
そしてちひろはもうひとつ、
ものすごい発言をした。

「...じゃあさ、どうして何もしないの?
普通、男が自分の部屋に女を呼ぶのって、
なんかしたいからじゃない?」

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