第35話 卑怯な男

「あんた誰?」

「英文科の本山 将弘、ちひろの友達だ。
今のどういう事だ?」

「だからあの女がしつこいって言ってるんだよ。
中澤が入院して問題も解決したってのに
まだメールなんか送ってきやがって。
おまけにいろいろある事ない事噂されて迷惑この上ない」

小倉は吐き捨てるように言った。
この男、腐ってる。

「...くだらねえ男」
「殺すぞてめえ!!」

小倉がキレて俺に殴りかかってきた。
弱い拳だった。
腐ってるだけでなく、器の小さい男だ。
こんな男のどこがいいのかまったくもって謎だ。

「やめとけ」

俺を殴った小倉の腕をつかんだ。
こんなやつと戦う気すら起こらない。
俺はその場を去ることにした。
その前に小倉の方を振り返った。

「そうだ、一応お前に言っておくが俺、
ちひろを自分のものにするつもりだから」

学食に行くとちひろ達がすでに集まっていた。
みんなが俺の頬の事を聞いたが、
俺はくだらない男にからまれただけだと答えておいた。

それから話題は俺のたばこの匂いについて移って行った。
ゴロワーズは臭いか、いい匂いか。

その時、横を小倉とその友達が通りかかった。
ちひろは立ち上がって、彼に声をかけた。
まるで叫ぶようだった。

「......」

しかし小倉は言葉ひとつ発することなく、
友達のかげに隠れた。
そして、何か言うと
自分だけ先にその場を逃げるようにして去ってしまった。
卑怯な男だ。

ちひろは崇の友達と顔を見合わせることになった。
彼は困った顔をしてちひろに近付いて来た。
そして、言いにくそうに少し間を置いてから言った。

「あんたさ、小倉のこと付け回すのやめてもらえないかな?
うざいんだってよ」

「......」

ちひろに言い返す言葉は見つからなかった。
小倉の友達はそれだけ言うと、小倉のあとを追った。

「小倉...!あの野郎!!」

俺も小倉の後を追った。
しかし、学食のどこを探しても小倉の姿はなかった。
逃げたのだ。

席に戻ってみると、ちひろはいなかった。
沖田はちひろが先に行くと言っていたと言った。
先ほどの事がショックで泣きに行ったのだろうか。
それとも、小倉を追いかけに行ったのだろうか。

いずれにせよ、ちひろは小倉の野郎に
ああまでされてなお好きでいるかと思うとたまらなかった。
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