第34話 小倉

「俺は荒れた。暴れたのとは違う、心が荒れた。
彼女のやり方を責め、自分自身をも責めた。
それでもまだ心のどこかに期待が残っていて、
彼女への想いを断ち切ることができなかった...」

さすがに、首の傷の事だけは言えなかった。
ちひろに嫌われるのが怖かったからだ。

「それで?」

ちひろは続きを聞きたがった。
しかし、俺はそれをごまかしてしまった。

「あとはそのまま時間が流れて、
みんな忘れてしまっておしまい、と。
俺にはあいつらもいたしね」

そのまま時間が流れたなんてはずはない。
あの時ちひろが俺の目の前に現れて、
俺の未練を一発で吹き飛ばしたじゃないか。

「...だから、お前は俺みたいになるな」
「どうして...」

図星か。
たぶん今、ちひろは赤くなった。

「そりゃ見てればわかるさ、お前わかりやすいし。
単純っていうか」

俺は含み笑いしながらそう言い、
言い終えるや否やげらげらと爆笑した。

「ほんっと、失礼なやつ!!」

ちひろは鼻にしわを寄せた。

「さーてと、そろそろ行きますかね」

俺はそんなちひろを無視して、
車をゆっくりと発進させた。
結局ちひろとは何もなかった。
ユウジにどう言い訳しようか。

それから日曜日にはちひろとケイちゃんにつき合って、
ユウジの誕生日プレゼントを買いに行った。
水曜日にはユウジの誕生日パーティが行なわれ、
ちひろには準備から参加してもらう事にした。
そして、試験が終わったらまた集まろうと約束した。

学校では、沖田と芹沢にも協力してもらって、
俺とマナブも一緒にお昼を食べるようにした。
試験前には、ちひろを誘って一緒にテスト勉強もした。
これもちひろが小倉の事を考える時間を減らすためだ。

試験が始まり、日程も中盤にさしかかった頃だった。
学食へ昼食を食べに行こうとした時だった。

ジーンズと黒いスニーカーに、
紺色のよれたダッフルコート、
くすんだ青のセーターを着た、
見覚えのある男とすれちがった。
小倉だ。

小倉は友達と二人だった。
そんな彼らの会話が俺の耳に流れ込んで来た。

「今の、誰からのメールだよ?」

「高校の同級生。
あの女、メールいっぱい送って来てしつこいんだよ」

小倉が言った。
ちひろがしつこいだと?
しつこくさせたのは誰のせいだ。

「おいお前、誰がしつこいって?」

我慢ができなかった。
俺は小倉に声をかけた。
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