第30話 Another World!!

俺はちひろの腕をつかんで
力まかせに引っ張って行った。

体育館前の門から学校を出て、
大通り沿いをちょっと行ったところにある、
ブランドショップのそばで通りを渡り、
スーパーの前を過ぎたところでちひろの腕を離した。

「なんなのよ、もう!」

「ごめん、無理に連れ出したのは謝る。
...なんか、お前見てらんなかった」

「なんで?」

「ずっと思い詰めたような顔して、
携帯ばっか気にしててさ。
正直、今のちひろはかわいくない」

「むっ」

ちひろは口を尖らせた。

「かわいくないものはかわいくない。
今のちひろはブスだ」

ちひろはそういう俺の背中を何度も殴りつけた。
俺はちひろの小さなこぶしを自分の手で受け、
そのままぎゅっとにぎりしめた。

「行こう!!」

「行こうって...どこへ?」

「どこへでも!!今日一日ぱーっと遊ぼう!!
俺といる間、俺はお前にそんな顔させねえ、
携帯なんか気にさせねえ、みんな忘れさせてやる。
だから行こう!!」

そう言って俺が連れて行ったのは、
ちひろの好きそうな雑貨屋だった。
今日はちひろに別の世界を見せるつもりだ。

一軒目の雑貨屋は大通りから少し入った住宅地にある、
ヨーロッパの田舎風の店だった。
ここではついでにユウジの誕生日プレゼントを買った。
ユウジが以前ここでいいなと言っていた、
青いステンドグラスのランプだった。

「来週、同居人の誕生日なんだ」

俺はちひろに秘密をちょっと明かした。
ゲイ疑惑があるのもそうだが、
学校から近いためたまり場にされてはかなわんと、
家の事は学校の奴らに内緒にしていたのである。

「...同居?」

「俺、友達2人と同居してんだ。
いわゆるハウスシェアリングってやつ」

「...ちっ、彼氏じゃなかったか」

「アホか!」

俺は笑ってちひろをひじで軽く小突いた。

「もーっ、何すんのよ!!」

ちひろも負けじと俺をどつき返した。

次の店はアジア風の雑貨屋、
その次はレトロフューチャー風の雑貨屋と
雑貨屋を3軒回って、
ハンドメイドのバッグ店。
アメリカンコミックのフィギュアやおもちゃを扱う専門店。
パッと見は地味で無難なデザインなのに、
裏地など見えないところで
ものすごく派手な色使いをする洋服屋。
フランスものを中心とした古着屋。

俺はちひろに考える暇を与えまいとあちこち連れ回した。

「あ、そういや...」

俺は急に思い出した。
ちひろを昼食の途中で引っ張り出して来た事を。
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