第28話 プレゼント

ちひろはウール地の濃い灰色のワンピースに、
かかとの低い白のブーツ、
白いピーコートといった格好だった。

一体、この女は今回も
「バキバキの本命デートごっこ」
のつもりなのだろうか。

今日が普通の日で、俺が普通の男だったら、
いけないところへ連れ込んでいけない事しちゃうところだ。

「将弘あんた車なんか乗ってるとよりおっさんぽいな」

ちひろは助手席に乗るなり失礼な発言をした。

「大人っぽいと言え」
「おっさん」

混んでいる都内を抜け出して、
どこへ行くというわけではなく、
すいている道をさがしては飛ばした。

途中ちひろと運転を代わったが、
暴力的な運転で身の危険を感じたため、すぐに交代した。

夕食はハンバーガーと、
あとでもう一度ファミレスに寄ってお茶を飲んだ。

会話を邪魔しないようにと選んだアシッドジャズもまた、
ちひろのおっさん発言の標的になった。

「ちひろ、お前にプレゼントをやる。好きなの選べ」

コンビニへトイレ休憩に寄った時、
俺は後部座席の小さな段ボール箱をちひろに渡した。
中身はお菓子やこまごまとした雑貨だった。

「...へえ、どれもかわいいな。
これ、乙女ちっくていうか、
将弘のセンスとはちょっと違うよね、誰のセンス?」

「俺のおばあちゃんのセンス。
今フランスにいて、
これらはクリスマスにといっぱい送ってくれたやつの一部」

「むっ、横流しか」

ちひろは口を尖らせ、鼻にしわを寄せた。

「何か深い意味のありげなアクセサリーの方がよかった?」

「むぅ、それもやだなあ...」

「俺としてはアクセサリーの方が簡単でいいんだけどな。
これでもけっこう迷ったんだぜ、
お前に何を贈ったらいいのか」

「ありがと。じゃあ、これ全部もらっとく」

「全部!」

「全部」

俺とちひろは顔を見合わせていたが、
こらえきれず二人ぷっと吹き出して大笑いしてしまった。

「...いいな」

ちひろは笑うのを止めて、急に真顔に戻った。

「いいって、何が?」

「将弘、あんたいい、すごくいいよ」
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