第25話 事件

「ちひろが小倉と共謀して俺を陥れ、
殺そうとしてるんだよ」

中澤はそう言いながら青ざめ、がくがくと震えた。

「だから、殺られる前に殺らないと...!!」

「何言ってるんだよ。
あいつらがそんな事する訳ないじゃないか」

「いや、やる!あいつら俺の事邪魔だと思ってるし!!
だから、今日ここで俺と会った事は誰にも言わないでくれ」

「わかった」

「じゃあ、誰かに見られるとまずいから消えるぞ」

中澤のやつ、本当に一体どうしたというのだろう。
やけに被害妄想が激しいっていうか、何ていうか。
ただ、様子が普通じゃないって事だけは確かなんだけど...。
俺はそんな中澤に対して何もできず、
もやもやとした気持ちになってしまった。

事件のあった日の事を俺は知らない。
その日、俺は風邪をひいて熱を出してしまい、
学校を休んで家で寝ていたからである。

熱はその日だけで下がったが、
翌日もう1日だけ様子を見て、
翌々日に学校へ戻ることが出来たが、
その時にはもう事件の噂でいっぱいだった。

事件というのは、
中澤と小倉が女をめぐって
女子トイレで争ったというものである。

初めて事件の事を聞いた時、
中澤がとうとう何かをやらかしたと思ったと同時に、
それを止められなかった自分を責めた。
あの時はまさか本当に警察沙汰にまで
なるとは思っていなかったのだ。

英語講読の授業でちひろと会った時、
それとなく事件の詳細を聞き出そうとしたものの、

「あんたには話したくない」

と、にべもない返事が冷たく返って来ただけだった。

詳細は別の授業で一緒になった沖田から知った。
ちひろは中澤にいきなり追いかけられて、
女子トイレへ逃げ込んだ。
そこへ中澤が入り込んで来て、逃げ場がなくなった。
それを目撃した小倉が、
ちひろを助けようと戦ったとの事だった。

そして、事件の当事者である中澤は事件以来学校に来ていない。
病院に入院する事になったとの事。
中澤がどんな理由でどんなところに入院する事になったのか、
想像するのは簡単だった。
しかしながら、中澤が早い段階で
適切な治療を受けられてよかったとも思った。

事件でかっこいい役を演じた小倉が
ちひろの中で株を上げたのは言うまでもないが、
かといって二人がさらに接近したかというとそうでもなかった。

むしろ事件がきっかけで疎遠になったという感じだ。
その証拠にちひろは始終携帯を気にするようになった。
これはある意味チャンスと言うべきなのだろうか。
だがそんなところへ割り込むのは卑怯かも知れない。
でも今なら割り込む隙がある。
どうする!?
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