第24話 彼氏向きの男

さすが沖田だな。
これじゃごまかそうたって無理だろう。

「...うん」
「でもさ、ちひろ今好きな人いるよ」

沖田はセブンスターに火をつけて言った。

「...うん、知ってる」

俺もたばこに火をつけた。

「お互い他人のものを好きって訳か...せつないね」

「そうだな」

「でもあたし、すぐに彼の事を忘れるよ。
必ずいい男見つけるんだから」

沖田はにやりと笑った。

「強いな」

沖田ならそれもきっと可能だろう。
...1年以上もひきずった俺とは違って。

「本山くん、今日はありがとう。
お礼と言っちゃなんだけど、
あたし本山くんの事協力するよ」

「お前意外といいやつだな」

「本山くんもね」

その晩芽生えた小さな友情のおかげで、
後期に入ってからちひろと会う機会が増えた。
それと同時に俺の読み通り、
芹沢に長い付き合いの男がいる事も知った。

沖田はその芹沢にも協力をあおぎたいので、
事情を話してもいいかと聞いてきたので、俺は了承した。

「いいよ、あたしも協力する。
ちひろとあの地味めの彼だったら、
本山くんの方がちひろと合ってる気がするし」

と、芹沢は快く協力をひきうけてくれた。
これで心強い味方が二人になったものの、
肝心のちひろの心は依然として小倉のもののままだった。

今日もちひろと小倉が学食で会っているのを見てしまった。
ちひろはとても深刻そうに話している。
小倉にべったりと頼りきっている。
小倉はというと、それを真面目に受け止めている。

芹沢は小倉とより俺の方がちひろと合うと言ってくれたが、
ちひろからすれば俺より真面目そのものな小倉の方が
ずっと彼氏向きなのだろう。

やるせない気持ちで学食を出ると、今度は中澤と出くわした。
2号館の前のベンチに彼は座っていた。
何があったのか、いつもの中澤ではなかった。

服装の乱れようよいい、うつろな目つきといい、
ぼんやりとした様子といい、
いつもの中澤ところか、人としてふつうの状態ではなかった。
どこか具合でも悪いのだろうか。

「おい、中澤」

俺は思いきって彼に声をかけた。

「...本山か...」

中澤はどろりとした視線を俺に投げかけて答えた。

「具合でも悪いのか?」

「...どこも。それよかちひろが小倉に泣きついて、
小倉が俺を殺しに来るんだよ」

「は!?」

俺は中澤の意味不明な発言に驚いた。
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