第23話 他人のもの

沖田の話を聞くと、
沖田は飲み会で知りあった既婚者の男と
3か月ほど前からつき合っていたが、
先日相手の奥さんに関係がばれてしまい、
今日とうとう一人暮らししているアパートに
乗り込まれてしまったのだとか。

沖田のこの様子からすると、
相当激しい修羅場がくりひろげられたようだ。
沖田は話を続けた。

「...それでさっき、彼から別れたいってメールが来たの」
「ひどい!メールで別れ話をするなんて!!」

ちひろは相手の男を非難した。

「要は体のいい愛人にされたってとこか」

俺が何げなく言ったら、
ちひろがテーブルの下で足を思いっきり踏んづけてきた。

「そう!奥さんとは別れるってさんざん言ってたくせに...!」

沖田は語気を荒げ、目のふちに涙をにじませた。
それでもまだ好きだって訳か。

...わかる。
俺も沖田も好きになったのは他人のものだ。
沖田は他人の夫が好きで。
俺の好きになった女の心は小倉のもので。

「...沖田、お前飲めるか?ちひろ、お前もだ」
「え...まあ...」

沖田はとまどいながらも答えた。

「あたしもつき合うよ」

ちひろは盃を飲み干す手ぶりをした。

「よっしゃ、じゃあ、これから飲みに行こう!」

俺たち3人は繁華街の、
学生がコンパに使うような大衆居酒屋へ入り、
座敷で腰をすえて飲み出した。

最初に沖田がトイレに立った時、
俺は隣に座るちひろの肩をつかみ、

「今日は沖田がゲスト、俺らがホストだ、いいな」

と、念を押した。
ちひろもそこは心得ており、

「おう」

と、答えた。
ちひろはあまり飲まないが、
ここで夕食を済ますつもりらしく、
いろいろな物を注文してはひとり平らげていた。

沖田はビールから始めて、
酎ハイ、焼酎をストレートと非常によく飲んだ。
そして、飲みながらたばこをチェーンスモークし、
相手の男との絆がどれほどのものだったのかを長々と語り、
また相手の奥さんの非を責めたりとくだを巻いていた。

ここで俺が驚いたのは沖田が吸っていたたばこの銘柄だった。
沖田の男に媚びたルックスからすると、
細身の女たばこを吸うイメージだが、
意外にもセブンスターのオリジナルを吸っていたりする。

「そういやちひろ、なんで本山くんと一緒に課題やってたん?」

ポテトフライを皿から1本つまんで沖田は言った。

「ああ、前期に借りてたノートを返したついでだったん」

ちひろもポテトフライをつまんだ。

「へえ...、デートでもしてたのかと思った」
「!!」

俺は思わず赤くなってしまったが、

「全然」

ちひろは口を思いっきり尖らせた。

「あたしトイレ」

そう言ってちひろがトイレに立ち、
俺と沖田の二人になった時だった。
沖田は自信ありげに聞いてきた。

「本山くん、ちひろの事好きでしょ?」
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