第22話 安全なおっさん

「何本気で困ってんだよ」

俺はちひろの方を振り返り、くすっと笑った。

「だって将弘が“いけないところ”とか言うから...!」
「ちひろのエッチ」

ちひろが真っ赤になって反論するから、
ついからかってしまった。

「むかつくー!!」

ちひろは俺の手をふりほどき、
背後から俺にダブルで蹴りを入れた。
...いちいち暴力的な女だな。

その夜はゲームセンターに行ったり、
カラオケ屋に行ったりと結局終電近くまで遊んだ。

ちひろ的に俺は
「ごはんを食べさせてくれて
遊びにも連れて行ってくれる安全なおっさん」らしい。

ちひろは事あるごとに俺をおっさん呼ばわりするが、
ひとつしか歳が違わないのだから、
せめて「お兄さん」くらいには格上げしてもらいたいものだ。

ちひろがノートを忘れてくれたおかげで、
夏休みの間にもう一度会う事ができた。

俺たちは学校で待ち合わせし、
図書館で本を借り、
学食が休みなので近所のファストフード店で
必修の授業の課題を一緒に片付ける事にした。
もちろんこれはちひろの提案だ。
ちゃっかりしている。

ノートは無事返って来たが、
この分では後期のノートもちひろに奪われそうなので、
次はちゃんと授業ごとにコピーをとっておかねば。

そうして夕方になり、
そろそろ帰ろうかという時になって、
ちひろの携帯が鳴った。

「もしもし?」

小倉からかと思った。

「あ、茉莉?どうしたん?」

“茉莉”...沖田か。

「今?学校の近くのマックにいるよ。
将弘と一緒に課題やってたん。
...わかった、待ってる」

ちひろはそう言うと電話を切り、俺に言った。

「茉莉がこれからここに来るよ」

「じゃあ俺、帰ろうか?」

「悪いんだけど、将弘にもいてほしいんだ。
なんか茉莉、相談があるみたい」

沖田は30分ほどしてやって来た。
しかし、いつもきれいに巻いていた髪の毛は
ぐちゃぐちゃに乱れ、
化粧も崩れてどろどろ、
顔や体のあちこちに傷がいくつもできていた。
その沖田の第一声はこうだった。

「...奥さんにばれちゃった」
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