第18話 ひみつ

土曜日、庭師のおじさんが朝早くからやって来て、
夕方までかけて作業してくれたおかげで、
庭はまた元通りにすっきりとした。

お昼にお茶を出した時、
庭師のおじさんはこの家には先代から出入りしている事、
大体いつごろどんな作業をしに来るか決まっている事など、
興味深い事をいろいろと話してくれた。

この週は庭師が入ったため、
庭掃除はたいした事はしなくて済んだが、
いつも週末の日中は家の中や庭、
家の前などの掃除をして過ごす。
それが俺の仕事だからだ。

日曜日には親父が様子を見に来て、
とても男3人暮らしとは思えないと笑っていた。

そのインテリアはユウジが洋服屋勤めらしくうるさくて、
彼が細々とした装飾品を買って来ては
家のあちこちに飾り付けていた。

俺もまた雑貨類が好きで、
ユウジと一緒になってこの家に合うものは何か相談して、
二人で雑貨屋めぐりをする事もあった。

ケイちゃんはあまりそういう事にはこだわらないが、
ある日男3人分の靴と家の中から来るたばこの煙で
玄関が臭いと言いだし、
消臭剤とお香のセットを買って来て、
時々お香を焚くようになった。

週が明けて月曜日、2号館の2階の廊下でちひろと顔を合わせた。
先週小倉といるところを見かけて以来である。
ちひろは明らかに様子が違っていた。
顔つきからして違う。
目がやけにきらきらしていて、陶酔の色さえ浮かんでいる。
何かいい事があったのだろうか。
俺が「よう」と挨拶すると、

「将弘あんた、おしゃれで落ち着いた店知らない?
前行った店評判よかったし」

と、いきなりそんな話題をふってきた。

「おしゃれで落ち着いた...?
なんか男が女を落とすのに使うような店って感じだな」

俺がそう言うとちひろは、

「と、友達と行こうと思って」

と慌てて言った。
あやしい。
俺の頭の中にひとつの式が浮かんだ。
「友達」=小倉、ではないかと。
それならちひろの慌てぶりもいつもと違う様子も納得がいく。
恋する女ってやつか。
それにしても二人がデートを約束する仲にまでなっていたとは。

「ひみつ」

俺はぷいとそっぽを向いた。
くやしいから教えない。

「何が“ひみつ”だか。さ、教えてよ。
なんて店でどこにあるのかいつ開いてるのか具体的に」

「だめだめ!女には手の内教えたくないもん」

「将弘のケチー!!」

そう言いながら、ちひろは靴の尖ったつま先で
俺のすねを思いっきり蹴った。

「......!」

俺はそのあまりの痛さに、
蹴られたすねを抱えてその場にしゃがみ込んでしまった。

「もういい!あんたには頼まん!!」

ちひろはそう言い残すと、俺を置き去りにして、
ずんずんと廊下を歩いて行った。
...なんて女だ。
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