第13話 嫉妬

あの男の存在がどうしても気になってしまい、
次の授業で会った折、
思いきってちひろ本人に聞いてみる事にした。

「なあちひろ。こないだ見かけただけど、
学食で一緒にいた男って何?
中澤は有名だから俺も分かるんだけど、
あの男はいまいちわからん。謎だ」

俺は授業が終わってすぐ、前置きもなく本題に入った。
俺とちひろは教室を出て、歩きながら話した。
ちひろは声を立てて笑った。

「確かにぱっと見謎なつながりかも!
あれは小倉 崇って言って、健太郎と同じ経営だよ。
あたしと崇と健太郎、3人高校の同級生なんよ」

なるほど。
そういうつながりがあるか。

「それにしても中澤のやつ、
だいぶ派手にお前の事追っかけ回してるようじゃねえか」

俺は軽く冷やかし気味に言った。

「...それで困ってるん。
でもさ、健太郎ってかっこいいじゃん?
茉莉や智子...女の友達には
健太郎の事相談しにくい...嫌味にとられそうだし。
そこで崇なんだよ。崇なら健太郎の事よく知ってるし」

ちひろの言葉が小倉と会うための言い訳にしか聞こえなかった。

「お前らしくねえ。
初対面の俺をおっさん呼ばわりしたように、
中澤にもガツンと言ってやれよ。
...小倉の事が好きだって」

ちょうど5号館を出たところだったので、
俺はシャツの胸ポケットからたばこを取り出し、
それを1本口にくわえて火をつけた。

「...!」

ちひろの目が大きく見開き、瞬時に顔を赤らめた。
図星かよ。

「ついでに小倉にもそれ、言ってやったら?」

俺はそう言うと次の授業に向かった。
俺、さっきから何を次々と嫌な事ばかり言っているのだろう。
これじゃちひろは当分
口もきいてくれないかも知れないじゃないか。
俺、ひょっとして嫉妬している?

思わず自己嫌悪にかられてしまったが、
冷静に考えてみると嫉妬しても無理はない状況だった。

俺の好きなちひろは明らかに小倉の事を好きで、
二人には中澤というつながりがある。
中澤を口実にちひろは小倉に頼り、中澤を口実に二人で会う。
そして二人には高校時代の同級生という共通項と歴史もある。
とても俺の割り込む隙はない。
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