第11話 熱の軌跡

学校から帰って、ベッドの上に仰向けになった時だった。
腹の上にちひろの手の感触を思い出した。
俺のよりずっと小さい、熱を持った手だった。
ちひろがつけた熱の軌跡を追うように、
自分の腹をそっと撫でた。
...近い。

自分の手をもう少し下の方に持って行った。
甘い興奮が集まりつつある。
俺はベルトに手をかけた。

興奮が最高潮になった時、
甘ったるい気持ちが頭の中で虹色の花火になり、
それがどろりとした白濁液になって体から抜けて行った。

欲望の残滓をティッシュで拭き取りながら、
俺は気が付いてしまった。
あれだけひきずっていた彼女の事を
すっかり忘れ去っていた事に。

彼女の思い出を、俺の心の傷を、
ちひろはTNT火薬のように一発で吹き飛ばしてしまった。
ちひろってすごい女かも知れない。

ちひろはそれから後も会う度失礼な女だった。
図体のでかい俺の事を、
体育会系で脳みそまで筋肉で出来ていそうだと言ったり、
ワックスで固めた俺の髪を通りがかりに
ぐしゃぐしゃにかき乱して行ったり。

彼女のいたずらには翻弄されっぱなしの俺だが、
会えない日があったりすると
残念に思っている俺がいる事にも気がついてしまった。

その間に、俺は二十歳の誕生日を迎え、
ちひろ的にはより「おっさん」になってしまった。
誕生日にはケイちゃんとユウジが中心となって、
パーティを開いてくれた。

祖母と伯父からは手紙と小包が届き、
フランスのお菓子やかわいい雑貨がいっぱい詰まっていた。
二人は俺がめがねをコレクションしているのを覚えていてくれて、
度なしだがサングラスもいくつか入れてくれていた。
それがどこでかけるか謎なくらい派手なものだった。

手紙には、パリでの生活が書かれてあり、
祖母がフランス語学校に通い始めた事を知った。
俺はすぐにお礼のメールを書いた。

大学に入ってからというもの、
どういう訳か女から声をかけられる事が多くなったように思う。
でかいから目立つのだろうか。
しかしいちいち相手する気もないので無視していた。
そんなある日の事だった。

5号館の近くでちひろに会った時、
ちひろは出合い頭にぷっと吹き出した。
何がおかしいんだ。
ちひろは笑いながら、
かばんの中から薄いピンク色の封書を出し、
俺にそれを差し出した。

「これ、将弘にあげる」

封筒の表にはボールペンで俺の名前が、
裏にはちひろの名前が書いてあった。

「え」

これって...。
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