第10話 新撰組

俺がちひろと次に会ったのは、
最初に会った日の翌々日だった。

この大学の学食は地下にあり、
購買の近くの入り口2か所と、
新館の地下から入れるようになっている。

広い学食で、喫煙席は混んでいて
いつも煙で空気が白くかすんでいるのに対し、
禁煙席は人もまばらで
新館寄りの座席はほとんど人がいないくらいだった。

この喫煙席と禁煙席の境に、
流し台と調味料やお茶の置かれた台があり、
ここから好きにお茶を
洗って積まれた茶わんに汲んで飲めるようになっている。

俺が学食の喫煙席でスパゲッティランチを食べていると、
食事の乗ったトレイを持ったちひろが俺の目の前を通りかかった。

「あ」

目が合ってしまった。

「まあいいか」

ちひろはそう言うと、俺の隣に座った。

「どうしたん?」
「友達が来る予定なん」
「ふうん...」

俺はスパゲッティをフォークに巻き付けた。
ちひろもそうした。
よく見ると、二人同じメニューだった。

ここのスパゲッティは粉チーズがかけ放題で、
ちひろは表面が見えなくなるくらいチーズをかけていた。

「そんなにチーズかけると太るぞ」

俺はこないだの仕返しとばかりに言った。

「むっ」

ちひろは鼻にしわを寄せた。

「あんたこそ、おっさんだからもう腹出てるんじゃない?」

そう言って、ちひろは俺の腹を撫でてぱつぱつと軽く叩いた。
彼女の突飛な行動に思わずどきっととしてしまった。
普通、知り合って間もない男の腹を触るか!?
何なんだろう、この女は。
ほんと失礼だな。

「ちひろー」
ちひろの友達らしき女2人組が、
俺の隣にいる彼女を見つけて近付いて来た。
ちひろは彼女らに手を挙げて合図した。

「友達ってあれか」
「そう」

ひとりはともかく、もうひとりはものすごい派手な女だ。
ちひろの友達は彼女の向かいに並んで座った。

「ちひろ、こちらは?」

派手な方の女が俺を見てちひろに聞いた。

「...ああ。英語講読で席が隣なん。
名前、本山...何だっけ?」
「将弘」

名前くらい覚えとけよ!!

「あたし、沖田 茉莉。で、こっちが芹沢 智子」

派手な女...沖田が鼻にかかる甘ったれた声で
もうひとりの方、芹沢を紹介した。
「近藤」、「沖田」、「芹沢」...新撰組かよ。

沖田はきっちり髪をコテで巻いてあり、
絶妙な襟ぐりの開き加減をした、
ピンクのワンピースを着ていて、
いかにも男ウケを狙っていますといったルックスだが、
芹沢の方は髪は明るい色のショートで、
穴の開いたジーンズを中心にトレーナーとネルシャツといった、
ユウジに近いファッションで、
男ウケしなさそうな感じだった。

芹沢は男に興味がないか、
それとも長い付き合いの男がいるかのどちらかだろうが、
沖田には要注意だ。
ああいう女には深く関わらない方がよさそうだ。

「...まあよろしく」

俺は二人にもそりと挨拶して、続けた。

「そういや、近藤さんてどこから通ってるの?」

ちひろは思い出したように、

「あ、“ちひろ”でいい。
あたしもあんたの事“将弘”って呼ぶし」

と、前置きした。
...失礼だけど、気さくな女だ。
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