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第8話 限界
河村さんとの仕事が始まった。
DTPチームのチーフである藤原さんとの相談で、
俺がデザイン、彼女が写真加工をすることになった。
他に、彼女は新人だから、俺が写真のカラーチェック
をすることになっている。
彼女の写真加工が終わるまでは、特に会話する必要も
なさそうだ。
正直ほっとした。
でも、その一方でこれでいいのかという思いもあった。
彼女がこの会社にいる限り、彼女と組む仕事はこれか
らもあるだろう。
そのたびに、俺はこんな思いをしなくてはいけないの
か。
「あのう、酒井さん。写真加工ひととおりできました
が...」
来たか。
それから、3日たった、定時間もない頃だった。
河村さんの写真加工ができあがった。
俺が見る前に、東さんや社長が見てたから、まあ大丈
夫だろう。
俺は、彼女からそのプリントアウトを受け取ると、
ぱらぱらと軽く流して、
「...いいんじゃない?」
と、彼女にそれを突っ返してしまった。
この日、俺は嫌いなクライアントから、電話でいつも
の文句を浴びせられていて、身も心も疲れていた。
河村さんの仕事なんて見ていなかった。
俺のデザインもこの時点ではすでにあがっていたので、
「...これも」
と、彼女にデザインのプリントアウトを渡し、DTP
チームに回させることにした。
すると、担当の藤原さんが、
「このデザインの方、社長に見せた?社長に見ても
らって、OKもらわないとだめだよ」
と、河村さんに注意した。
「え...」
河村さんは返答に困った。
当たり前だ。
デザインは俺の仕事であって、河村さんの仕事じゃな
い。
でも、彼女はめげることなく、
「じゃあ、私が社長に見せます」
と、答えた。
社長がデザイン部にやって来たのは、定時を30分くら
い過ぎた頃だった。
「あの、社長。DTPチームに回そうと思っているので
すが、デザインはこれでよろしいでしょうか」
河村さんは、さっそく俺のデザインと、あらためて彼
女の写真加工を社長に見せた。
俺は、別の仕事をしていた。
社長は言った。
「...このデザインは君がやったのかね?」
「いいえ、酒井さんです」
彼女は答えた。
俺は、立ち上がって、社長の方を向いた。
「酒井!!なんだこの雑なデザインは!!ぬるい仕事する
な!!」
社長が吼えた。
河村さんは、俺のかげで体を縮こまらせていた。
俺が悪いのはわかってる。
でも、彼女だって、何か言ってくれてもいいじゃない
か。
どうして、俺だけがこんな目にあわされなければいけ
ないのか。
...胃が痛い。
限界だ。
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