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第3話 コーヒーブレイク
河村さんは、よくしゃべる方だと思う。
誰かが話しかけると、気さくに答える。
新人だから、早くみんなと打ち解けたいのだろう。
でも、なぜか俺とは話をしない。
俺が話しかけないからだろうか、それとも、俺などと話す価値もないというのだろうか。
次の日の朝、会社の近所のコンビニで会っても、彼女は不思議そうな顔をするだけで、あいさつを交わす事はなかった。
会社には、午後3時にコーヒーをいれる時間がある。
コーヒーはチケット制で、1杯50円になっていて、希望人数分だけ、その日の当番である女性従業員がいれることになっている。
社長、副社長は例外で、料金を徴収しない。
今はコーヒーに落ち着いているが、社長は以前、紅茶にはまっていた。
熱しやすく冷めやすいタイプで、紅茶にはまっていた時は、従業員にあれこれと安いものから、4桁はする高いもの、様々な香り付きのものなど経費で揃えさせたものの、しばらくすると、
「俺はもう紅茶を極めた、もういいわ」
と、ぱったりやめてしまったのだ。
そんな社長が、今度はエスプレッソにはまりだしたらしい。
俺は社長室に呼び出され、
「エスプレッソをいれる機械を導入しろ」
と、命令された。
...困った。
俺はほとんどコーヒーを飲まない。
飲んでも、せいぜいインスタントがいいところだ。
社長から解放され、自分の席に戻っても、どうしたらいいかさっぱりだった。
あの社長の事だ、生半可な物では満足すまい、きっとプロ用のものを求めるはずだ。
「エスプレッソマシンて一体どんなの買えっていうんだよ!?すぐ飽きるくせに!!」
思わず、声に出してぼやいてしまった。
隣にすわる河村さんにも今のは聞こえてしまっただろう。
変なやつとでも思っただろうか。
しかし、河村さんはメモに何やら一生懸命書き込んでいた。
よかった、あまり気にされていない。
俺はまた、パソコンのモニタのある方に顔を戻して、
エスプレッソについて考えだした。
すると。
「エスプレッソマシンてこんなのでしょうか」
河村さんが、俺に声をかけてきた。
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