第2話 どうでもいい

 会社の始業時間は、朝8時半となっているが、その前にみんなで掃除するという習慣がある。
 会社は8時過ぎに営業部の人間がカギを開ける事になっているが、出入りの激しい人事のことだ、いつデザイン部にカギ当番がまわってくるかわからない。
 俺の家は、会社から1時間以上はかかるところにあり、電車の都合でどうしても早く着いてしまう。
 デザイン部にカギ当番がまわってきたら、俺が第一候補間違いなしなので、近所のコンビニで立ち読みなどして、時間をつぶしてから出社することにしている。
 この日も、俺はそんなふうに出社した。
 あれから10日くらいたっている。
 
 デザイン部の部屋に入ると、知らない女がみんなに混じって床掃除をしていた。
 そういや...。
 ぼんやりとしか覚えてはいないけれど、彼女は先日面接にきていた女だった。
 彼女は、背も高く、かっちりとした肉付きをしていた。
 今日が初日だからだろうか、青い縦縞のシャツに、水色のカーディガン、黒のコーデュロイのパンツ、黒い革のスニーカーという、ちょっと地味めの服装をしていた。
 今どきめずらしく、染めていない長い髪を後ろでひとつに束ねている。
 顔は濃いめで、化粧っ気がなく、若干幼い感じがするが、まあそこそこだろうか。
 彼女は、俺を見つけると、緊張した面持ちで、
 「今日からお世話になる河村 真美です、よろしくお願いします」
 と、頭をちょこんと下げて挨拶した。
 「酒井です、よろしく」
 俺は、そっけなく挨拶を返した。
 正直、俺はあまり人付き合いの上手い方ではない。
 他人との会話ではいつも言葉の足りないタイプ、大勢といるよりはひとりでいる事を選ぶタイプであった。
 相手が女ならなおさらである。
 彼女は、あの空席に座る事になった。
 つまり、俺と同じ画像処理チームに入るってことか。
 特に、仲間が増えて嬉しいとか、歳の近そうな女の子が来て嬉しいとか、俺にはそういう感慨はなかった。
 
 ただ、俺の2年後輩の牧村由紀夫には嬉しかっただろう。
 牧村さんは32歳で、広告チームにいる。
 クライアントとの打ち合わせが多いからか、彼はいつもスーツ姿だ。
 なにやら、血圧の高そうな、赤い顔色をしている。
 あと数年もしたら、きっと腹が出てくるだろう体型だ。
 背も大きいほうだ。
 図体はでかいくせに、とても淋しがり屋だ。
 何かにつけ、やたら俺にからんでくる。
 俺は、いつもそんな彼を撃退するのに苦労している訳だが、河村さんが入ったことで、俺への攻撃が少しは減るだろう。
 河村さんは、彼のいい標的になりそうだ。

 その後、昼前に社長がデザイン部にやって来て、河村さんを改めてみんなに紹介した。
 彼女は俺と同い年らしい。
 そんな、どうでもいい事がやけに、心に残った。
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