第28話 色

 俺は、はっきり言って、かっこいいとは言えない。
 顔も女の子の好きそうな顔ではない。
 背も高い訳ではない。
 おしゃれどころか、服装も無頓着だ。
 気も利かず、そっけなく、無愛想で、女の子の喜ぶ事なんてさっぱりわからない。
 事実、俺には彼女がいた事がないし、もてたこともない。
 俺には色なんてなかった。
 そんな俺の目の前に河村さんが現れた。
 彼女は、俺に多彩な色を見せてくれた。
 彼女の色は俺の色になった。
 そんな彼女がいなくなろうとしている。
 
 長い社長の小言から解放された時、もう12時近かった。
 俺は、エクセルを終了し、Macの電源を落とした。
 机の上の書類をまとめて、かばんにしまい込んだ。
 もう行かなければ。
 俺はかばんに手をかけた。
 「...酒井さん」
 河村さんがつぶやくように、声をかけてきた。
 ...来たか。
 「......」
 俺は無言のまま、彼女の方へ振り返った。
 「ありがとう」
 彼女は座ったまま、笑顔で右手を差し出して来た。
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