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第17話 内部崩壊
最近、鮎川さんがやたら株をあげている。
いつも何かと怒鳴られている俺とは大違いだ。
そんな頃、画像処理チームのチーフである、飯島さんという、30代の女性社員が産休に入り、その後任に鮎川さんが抜てきされた。
この人事は、河村さんをさらに追いつめた。
彼女の仕事のやり方にチェックが入り、納期間近でありながらも、彼女は仕事のやり方の変更を余儀なくされ、それに苦戦していた。
彼女はなんだか最近やせたようだった。
そのストレスと連日の残業とで、彼女が憔悴しているのがありありと見てとれた。
彼女には、もう何も見えていなかった。
もう、何も聞こえていなかった。
彼女は心を閉ざした。
仲のいい富家さんともあまり口をきかなくなってしまった。
昼休みには、砂を噛むような顔でお弁当を食べている彼女を見た。
仕事中、必死で涙をこらえている彼女を見た。
俺は、彼女が彼女の内側から壊れていくのを感じていた。
でも、俺はそれをただ見ているだけだった。
彼女がどうであれ、仕事は仕事だったからだ。
いや、俺はずるいな。
仕事にかこつけて、自分の弱さをごまかしている。
彼女の弱さを知ってしまった今、せめて共感ぐらい示してもよかったのに。
思えば、彼女が俺に歩み寄ったのも、彼女が、自分と同じ弱さを俺の中に感じ取って、共感したからに違いない。
金曜日の事を俺は知らない。
その日、俺はクライアントとの打ち合わせがあり、遅くなりそうなので、社に寄らず、そのまま帰宅したからだった。
その日の河村さんは、仕事もろくろく手につかず、1日中泣いて、机の上をティッシュでいっぱいにしていたという。
誰が聞いても、彼女は何も言わず、涙の理由はわからなかったという。
この時、彼女の中では、自分ではどうすることもできないほどの強い引力で引っ張られるように、彼女の思考が後ろ向きに走って行ったという。
そして、彼女はその結論を出した。
土曜日の午後、河村さんが出勤してきた。
彼女の目がとろんとして、なんだか眠そうだったが、彼女は落ち着きを取り戻していた。
彼女はデザイン部の部屋に入るなり、藤原さんに、
「メール見ましたよ、すっごくうれしかったあ。で、今日午前中病院行ってきました。おかげでもう大丈夫」
と、報告らしきものをしていた。
彼女は、藤原さんには事情を話しているらしい。
彼にはなんでも話せて、心を許せるというのか。
俺には心を許せないというのか。
それから、彼女は自分の席に着き、前日の仕事の続きをはじめた。
わずかであるが、彼女の顔に笑顔が戻った。
これは、だいぶ後になってから知った事だが、金曜の夜、河村さんは彼女自身の中で、「自分の存在自体無意味なものである」との結論を出し、向かいのコンビニに買い物へ行くと会社を抜け出し、そのまま、何も考えることなく、車の流れる道路に飛び出したという。 |
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