最終話 墓碑銘

ネットの巨大掲示板でも、「THE ぎょうざ M@STER」から、
急に『H@RUKO』の姿が消えた事を
不思議に思う書き込みが盛んにされていた。

仕事が忙しい説。
結婚説。
病気説。

東子の『支店』の者は全員彼女の死を知っていたが、黙秘を守り通した。
「THE ぎょうざ M@STER」はゲーセンからの撤去が進み、
プレイ人口も減る一方だった。
それと共に「H@RUKO」の名もだんだんと忘れられていった。


東子の死以来、俺は周囲の人から時々臭いと言われるようになった。
たばこを変えたからだ。

東子が吸っていたのと同じたばこ。

東子は香水をつけてたから、その臭さのほどがわからなかった。
両切りで、男でもなかなか吸っている人がいないたばこだ。
質屋の近くのマニアックなたばこ屋にあった。

最初、辛くて癖が強くてきついと思った。
でも実際はそんなに重くなく、甘い。
短くなればなるほどコクが増してゆく。
いいたばこだ。
一箱空けた頃には、もう前のたばこには戻れなくなっていた。

火を点けるごとに、東子の匂いがした。
東子の情熱が俺をそっと包んだ。

「勝ちゃん」

まるで東子がそこにいて、俺の事を呼んでいるようだった。
俺は紫煙と共に、
東子との思い出を、
東子の苦しみを、
東子の愛を、
しっかりと心に刻み込んだ。
墓碑銘のように。

東子、永遠だ。


花が散って。
緑が日に日に濃くなって。
空気が熱を孕んで。
春が逝く。
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