最終話 そしてそれは


相変わらず黒髪で中学生のような髪型。
アイロンの当たっていない紺色のシャツ。
首筋だけでなく、生地全体が伸び、
色もはげた黒のTシャツ。

中途半端に色落ちして、
ところどころ白くなっているジーンズ。
見覚えのある、
黒のスニーカーに黒のショルダーバッグ。
小倉は相変わらず服装に気を使わない男だった。

そんな彼とちひろの目と目が合ってしまった。
小倉の目は暗かった。

彼は思い詰めたようにちひろをじっと見つめて、
何か言いたげだった。

ずっと自分の事を好いていたちひろが
俺のものになって惜しくなったのだろうか。

「行こ、将弘」

ちひろは俺の方を向き、
空いた手で俺の腕を引っ張った。

たとえ今、小倉がちひろに好きだと言っても、
それはもう遅いだろう。

中澤が自分の気持ちにケリをつけに
ちひろの前に現れた時、
その時ちひろの心は変わったのだから。
そしてそれは、もう元に戻る事はないのだから。



学食へ続く階段の途中、ちひろの携帯が鳴った。
小倉からだろうか。

ちひろはちょっと待ってと立ち止まり、
携帯を開いて手早く何か操作をして、
すぐにそれを閉じてしまった。

それから階段をぱたぱたと駆け降り、
踊り場で待つ俺の手を取った。
俺はその手を離さないように、ぎゅっと握った。

いつか、そう遠くない将来。
ふたりの気持ちがこのまま変わっていなかったら。
俺はとっておきの気持ちと言葉を、
ちひろにプレゼントしようと思った。



「あいつはゴロワーズ」完

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